律
提供: 新纂浄土宗大辞典
りつ/律
仏教教団(サンガ)を正しく維持運営していくために必要な教団規則と運営法。ⓈⓅvinaya。毘尼、毘奈耶とも音写される。元来ヴィナヤとは、「訓練すること・教育すること」を意味する言葉であったが、それが次第に「定められた規則」を表す言葉として用いられるようになり、「他から命ぜられる、守るべき規則・教団法」という形で定着するようになる。これは戒(シーラ)とは違って罰則を伴うものであり、サンガの構成員である比丘・比丘尼はこれを守らなければならない。また律の諸規則は釈尊によって直接に規定されたものであり、釈尊の定めたままに遵守していくことを原則とする。釈尊在世中に、律の規定がどのように制定されていったのかは明らかではないが、律典中には、当初の教団構成員はみな清浄であったため規則を設ける必要はなく、次第に罪を犯す僧が現れるようになって、規則が制定されていったとの記述がある。伝統的にこれを「随犯随制」と呼び、問題の生じた時点で教団規則が制定されたものであるとの立場を示している。律は、仏教文献を三蔵という区分で分類した場合、経蔵、論蔵と並んで律蔵(ヴィナヤ・ピタカⓈⓅvinaya-piṭaka)という一角を担うが、内容的には、二〇〇項目以上の禁止条項と、サンガを維持運営していくための様々な運営規則という二つの要素を中心としている。これら両要素を備えた律文献を律の伝統では「広律」と称し、一般的には以下の諸文献を指す。①パーリ律ⓅVinaya-piṭaka(南方上座部/分別説部所伝)、②『四分律』仏陀耶舎・竺仏念等訳〈四一〇〜四一二年訳出〉(法蔵部所伝)、③『五分律』(弥沙塞部和醯五分律)仏陀什・竺道生等訳〈四二二〜四二三年訳出〉(化地部所伝)、④『摩訶僧祇律』仏駄跋陀羅・法顕訳〈四一六〜四一八年訳出〉(大衆部所伝)、⑤『十誦律』弗若多羅・鳩摩羅什訳〈四〇四〜四〇九年訳出〉(説一切有部所伝)、⑥「根本説一切有部律」義浄訳〈七〇〇〜七一〇年訳出〉・チベット語訳〈九世紀頃訳〉(根本説一切有部所伝)。これ以外にも、律の断片的資料(梵語、漢訳など)、戒本(戒経)、羯磨本と呼ばれる文献、律の注釈文献、大乗戒に関する文献などが現存する。
【参考】平川彰『律蔵の研究』(山喜房仏書林、一九六〇)、同『原始仏教の研究』(春秋社、一九六四)、佐藤密雄『原始仏教教団の研究』(山喜房仏書林、一九六三)
【参照項目】➡戒律
【執筆者:山極伸之】