十乗観法
提供: 新纂浄土宗大辞典
じゅうじょうかんぼう/十乗観法
『摩訶止観』の第七正修止観章に説かれる止観の修行方法。「十境」と「十乗」の観法を中心とする、天台の実践理論の核心的でかつ独創的な内容である。「十境」とは、仏道修行中に現れる一〇種類の代表的な問題であり、これらの問題が生じたときにただちに対処しないと修行は成就しないという。「十乗」は、「十境」の問題に対処するに最も重要な方法である。『摩訶止観』では、それを観不思議境・発真正菩提心・善巧安心止観・破法遍・識通塞・道品調適・対治助開・知次位・能安忍・無法愛の順に、「十境」のそれぞれの問題につき、十乗観法を適応させるように論じている。『摩訶止観』における「十境」と「十乗」の観法体系の完成は、『次第禅門』や『天台小止観』に説かれる簡素な観法を十乗の観法にまで一気に増やし、「十境」に現れた様々な問題に対応できるようにしたものである。加えて、十乗観法を行うための具体的な実修方法として行・住・坐・臥・言語・作務を展開し、日常生活のすべてが仏道修行になるとして四種三昧の修行体系に適用されることを示した点は、後の天台宗の多彩な実践法に理論的な根拠を与えた。
【参考】池田魯参『詳解摩訶止観』地巻研究註釈篇(大蔵出版、一九九七)
【執筆者:林鳴宇】