北枕
提供: 新纂浄土宗大辞典
きたまくら/北枕
遺体を安置する際に、頭が北になるよう床を設え寝かせる習俗のこと。それまで病などで床についていた人が死亡したことを確認し、その後、死者として扱うための最初の行為である「枕直し」に相当し、日本各地に見られる。釈尊が涅槃に入る際の姿に倣ったとされ、たとえば『長阿含経』収載の『遊行経』に、釈尊が最期を迎えるに当たり、阿難に「汝、如来がために双樹の間に床座を敷き置き、頭を北に、面首をして西方に向かわしめよ」(正蔵一・二一上)と述べたことなどが伝えられている。同様のことは法然の『三部経釈』においても「抜提河の辺、沙羅林の下にして、八十の春の天、二月十五の夜半に頭北面西にして滅度に入りたまいき」(聖典四・二九四)と語られ、また『涅槃講式』にも「𤘽尸那城の跋提河 娑羅林双樹の下に在して 頭北面西右脇臥 二月十五夜の半に滅す」(正蔵八四・八九八上)とある。ちなみに頭を北に、右脇を下にして寝るのは現代でもインドの教養人の習わしであるという。なお、遺体安置の実際上、北枕が不可能であれば西枕でもよいとされ、あるいはまた実際の方向にかかわらず、頭の方向を北と見立ててもよいとされる。
【参考】五来重『葬と供養』(東方出版、一九九二)、中村元訳『ブッダ最後の旅—大パリニッバーナ経—』(岩波書店、一九八〇)、藤井正雄・八木澤壮一『日本葬送文化大事典』(四季社、二〇〇七)
【参照項目】➡頭北面西
【執筆者:袖山榮輝】