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阿弥陀経釈

提供: 新纂浄土宗大辞典

あみだきょうしゃく/阿弥陀経釈

一巻。『阿弥陀経私記』『小経釈』とも。法然述。法然東大寺における浄土三部経講説の一つとされる書。本書は①寛永九年版(一六三二)②承応三年版(一六五四)③元禄一一年識語(一六九八)の古本『漢語灯録』所収本④正徳五年版(一七一五)の新本『漢語灯録』所収本が知られ、これらは①②と③④の二系統に分類される。このうち①②④が版本であり、③には大谷大学所蔵の写本と市川市善照寺所蔵の写本がある。本書は、①②においては、『阿弥陀経』に四意があるとして、一「経来意」、二「専雑」、三「釈名」、四「入文解釈」の計四章を挙げ、その内容の大部分が「入文解釈」の記述で占められる。一方、③④では五意があるとして、一「弁所依教」、二「重釈二行」、三「経来意」、四「釈名」、五「入文解釈」の計五章を挙げて論述を展開し、結語に東大寺での講説を終えた感想を述べる。このように両系統の構成には大きな相異がある。また「釈名」や「入文解釈」の部分が源信の『阿弥陀経略記』を、加えて『漢語灯録』所収本の一「弁所依教」、二「重釈二行」が同じく源信の『往生要集』巻下大文第八「念仏証拠」を下敷きにして論述したと見られている。両系統とも『選択集』第一三章から第一六章までの各章私釈段と対照可能な章句が含まれ、従来、法然の教えの中でも、とりわけ選択本願念仏を提唱するに至った思想形成を知る上で貴重な資料と位置付けられている。しかしながら、③④が自ら言及する東大寺講説の時期が文治六年(一一九〇)二月であるのに対し、①②には講説自体の記述が見当たらず、また『四十八巻伝』三〇では、法然は建久二年(一一九一)に東大寺三部経を講じたとされるほか、諸伝記における講説の内容には出入りがあるとされ、本書の成立に関してはいまだ十分に解明されたとは言えない状況にある。それに伴い、『選択集』と対照可能な章句についても、『選択集』撰述(同九年)以前の着想であるのか、あるいは後世における付加であるのか、慎重な判断が求められ、研究が進められている。


【所収】昭法全(①②系統)、昭法全、浄全九、正蔵八三(共に③④系統)、『仏教古典叢書』、『黒谷上人語灯録写本集成1 善照寺本 古本漢語灯録』(共に③系統)


【参考】大橋俊雄訳『法然全集』三(春秋社、二〇〇一)、袖山榮輝訳『傍訳阿弥陀経釈』(四季社、二〇〇五)、林田康順「法然上人〈三部経釈〉に説かれる〈選択〉をめぐって」(『三康文化研究所年報』三一、二〇〇〇)、岸一英「『阿弥陀釈』古層の復元—『三部経釈』の研究(五)—」(髙橋弘次先生古稀記念論集『浄土学仏教学論叢』山喜房仏書林、二〇〇四)


【参照項目】➡三部経釈東大寺講説


【執筆者:袖山榮輝】