往生要集釈
提供: 新纂浄土宗大辞典
おうじょうようしゅうしゃく/往生要集釈
一巻。法然述。源信の『往生要集』を注釈した書。法然の注釈は、他に『往生要集料簡』『往生要集略料簡』『往生要集詮要』がある。四種の釈書はいずれも、詳しい成立年代は不明であるが、法然の著述の中で初期のものとされている。本書ではまず、『往生要集』には「広・略・要」の三つの見方があると指摘する。初めに「広」では、『往生要集』各門における文について詳説はしないが、一〇門全体を通して解釈している。次に「略」では、『往生要集』大文第五「助念方法門」の第七「惣結要行」の文をもって「要集の肝心」「決定往生の要」と解釈し、この解釈の中で称名念仏を往生の至要とするのが『往生要集』の意としている。ただし、本書ではこの「惣結要行」に関する二種類の解釈が不自然な形で連続して説かれていることから、後世の何者かによる加筆があることが指摘されている。最後に「要」では、『往生要集』大文第四「正修念仏門」の第四「観察門」と大文第八「念仏証拠門」の文によって、念仏が往生の要行であるとする。ここで法然は、念仏と諸行を対比して、念仏が要行であることを述べている。石井教道がこれら『往生要集』の四釈書を法然思想史の上で、初期「浅劣念仏期」における著作に配当して以来、多くの研究者によって、成立時期や四釈書間の成立順序について論考されてきた。四釈書の中に、後世における増補箇所が存在することもこれらの議論を複雑にさせる要因と考えられる。ただし増補があるからといって、これらの釈書が偽撰と考えられているわけではない。また、四釈書が所収されている『漢語灯録』には古本と新本とがあり、義山開版の新本『漢語灯録』六には、古本とは異なり、『往生要集大綱』『往生要集略料簡』『往生要集詮要』各一巻が収められている。この新本のうち、『往生要集大綱』・『往生要集略料簡』は、義山が本書(『往生要集釈』)を二分し、前半部分を『往生要集大綱』、後半部分を『往生要集略料簡』と名づけ、文章にも多少手を加えて、『漢語灯録』に載せたものと考えられている。したがって、新本『漢語灯録』所収の釈書については、法然の真撰とはいいがたい。
【所収】『仏教古典叢書』、昭法全、浄全九、正蔵八三
【参考】末木文美士「初期源空の文献と思想—『往生要集』釈書を中心に—」(『南都仏教』三七、一九七六)、服部正穏「法然の『往生要集』末疏成立年次について」(『浄土教論集』大東出版社、一九八七)、林田康順「法然上人『往生要集』釈書撰述についての一考察」(『仏教文化学会紀要』四・五合併号、一九九六)、南宏信「法然『往生要集』諸釈書の六義について」(『佛教大学大学院紀要』三四、二〇〇六)
【参照項目】➡往生要集
【執筆者:長尾隆寛】