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戒名

提供: 新纂浄土宗大辞典

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かいみょう/戒名

授戒などの儀礼を受けて、仏門に帰入した者に与えられる名のこと。法名法号ともいう。中国や日本では、受戒して沙門となり教団に加入すれば、俗名を改めて戒名を用いることが早くから行われた。仏教が普及するに従い、僧とならず在俗で仏教帰依した者にも戒名が与えられるようになり、その後、死者に戒名を与える風習が一般的となった。

戒名の起源]

起源についてはインドからの発展説、中国における釈尊帰一説、中国習俗起源説の三通りが考えられる。 ①インドからの発展説—数々の経典にみられる「授記」の記述によるとする説である。授記とは、仏が弟子に、未来には仏になれるであろうという保証をすることで、その証として名が授けられた。 ②釈尊帰一説—仏弟子となれば、皆釈迦の姓となるべきであるとの考えによるとする説である。東晋の道安は、中国で出家したものの多くが師匠の姓をもって称するのを、『高僧伝』五「道安伝」に「初、魏晋の沙門は師によりて姓となす、故に姓おのおの同じからず。(道)安もって大師の本、釈迦より尊きはなしとし、すなわち釈をもって氏に命ず。後に増一阿含をうるにはたして称せり。四河海に入りてまた河名なし。四姓沙門となり皆釈種を称すべしと。すでにはるかに経て符す、ついに永式となす」(正蔵五〇・三五二下)とし、仏弟子となれば、皆釈迦の姓となるべきであるとの考えにより自ら釈道安と号したとある。 ③中国習俗起源説—中国では古来、名(いみな)の他にあざなを持ち、尊んで呼ぶ場合はよく字が用いられた。その字が戒名となったという説である。『釈氏通鑑』によると、梁・普通四年(五二三)、法師慧約にその名はそのままにして、別に智者と号せしめたことを記しており、これが僧侶道号の初めであるとされているが、これが後に天台・法相・華厳などでも用いられるようになった。

浄土宗戒名

戒名は古くは二字が通例であったが、室町時代から道号院号などが付け加えられるようになっていった。現在では、位号の上の二文字を指して特に戒名というが、一般的には院号誉号道号戒名位号など、授けられた全てを含めて戒名と称する傾向が強い。浄土宗では、生前に授戒会に参加することにより位号の上の二文字の戒名が与えられ、五重相伝会に参加することにより誉号が与えられる。しかし授戒会に参加する機会にあわず命終する者も多く、これらの者には、死亡後に剃髪授戒の儀式を行い、戒名を授与している。なお、出家僧侶)には、得度式の際に戒名が授与されることになっている。

戒名の付け方]

現在では、全体としての戒名は、故人の生前の信仰の浅深、授戒会五重相伝会を受けているかどうか、人柄、年齢、寺院や社会への貢献度などを考え、もっとも故人にふさわしい戒名が授与される。なお、戒名は、故人の俗名、所依経典、宗祖の言葉などから選ばれるが、全体の戒名法名)を構成する院号誉号道号戒名位号などの組み合わせは、文字の適否の判定、読み易いこと、語感の調和等が考慮される。戒名選定には古来「三選三除の法」が伝えられている。三選とは一つに熟語の善悪、二つには音便の可否、三つには年齢の応不応であり、必ずこの三つにあった字句を選ぶ。三除とは、一つに奇怪の難字、二つに無詮の空字、三つに不穏の異字であり、この三つを必ず除くとされる。奇怪の難字とはあまり使うことのない読み方書き方をする字のこと、無詮の空字とは無意味な言辞のこと、不穏の異字とはその一字が入ることによって、戒名全体が穏やかでなくなってしまう文字のことである。また、言辞そのものが良くとも、他の不適切なものを連想させるようなものも良くない。文字の中で避けるべきであるとされる字もある。それは、祖師・高徳者・歴代本山法号・法諱、歴代天皇の尊号など、また動物の名(縁起の良い動物・霊獣、仏教因縁のある動物は例外)であるとされる。故人の俗名に用いられていた字を用いることは、その人を偲ぶよすがになるもので、一字位は用いても差支えないとされているが、この場合には戒名位号の上の二文字)よりも道号に用いるのがよいとされる。また、文人画家などで、雅号、俳号をもっていた人ならば、それを使用することがよくある。

また、仏教では漢字を呉音で読むことが多いが、戒名の場合には、音調を調えることから漢呉混用している場合が多い。呉音で聖を「しょう」というのを「せい」と読み、聖覚を「しょうかく」といわず「せいかく」というのはその例である。


【参考】松下日孝『葬儀・法要・戒名・仏壇・お墓の話』(共栄書房、一九七七)、藤井正雄編『仏教儀礼辞典』(東京堂、一九七七)、藤井正雄『戒名のはなし』(吉川弘文館、二〇〇六)、浄土宗総合研究所葬祭仏教研究班「戒名 その問題点と課題」(浄土宗、二〇〇一)


【参照項目】➡蓮社号院号誉号阿号道号位号庵号院殿号


【執筆者:藤井正雄】