唯心
提供: 新纂浄土宗大辞典
ゆいしん/唯心
あらゆる現象世界はただ心の現れに過ぎないということ。『十地経』の有名な句に「三界は虚妄なり。但だ是れ心の作なるのみ(Ⓢcittamātra)」(鳩摩羅什訳『十住経』三、正蔵一〇・五一四下)がある。世界のすべてが衆生の心に依拠して生ずるもので、自らが苦しむために赴く虚ろなものであるという意味。唯識や如来蔵においては経証として取り上げられる。「破地獄偈」の偈文「若人欲了知 三世一切仏 応観法界性 一切唯心造」は『八十華厳』一九(正蔵一〇・一〇二上)の「唯心偈」と呼ばれる詩句の一部である。これは仏の本質はこの世界の真理そのものであり、仏を理解するとは世界が心の造作に過ぎないという本性を認識することと同じであるという意味である。この思想の延長にある唯心浄土自性弥陀の浄土観は浄土宗義の指方立相と対立する。
【参照項目】➡破地獄偈、己心の弥陀・唯心の浄土、唯識
【執筆者:小澤憲雄】