げんかん／現観

現前で観察するように、明確に理解すること。Ⓢabhisamaya。聖諦現観ともいわれる。『俱舎論』賢聖品では、現観は「正しく理解すること」とされる。現観は特に四諦を認識することであり、このような四諦の現観によって、心と煩悩の関係が断ち切られる。つまり煩悩を断ち切る修行の中でも、現観は非常に重要な地位をしめ、それゆえ緻密な分析がなされた。『俱舎論』では現観に至るために、四諦十六行相を観察する必要性を説く。四諦十六行相とは、四諦のそれぞれに四つの特徴を設定するもので、苦諦には非常・苦・空・非我、集諦には因・集・生・縁、滅諦には滅・静・妙・離、道諦には道・如・行・出、以上のそれぞれの行相がある。この四諦十六行相を、幾度も禅定修行の中で観察し、それを繰り返す仏道修行者に、覚りの智慧が生じる。この覚りの智慧によって、四諦をまざまざと理解することが現観であり、これは見道と対応するものである。覚りの智慧には、法智と類智、さらにそれを導くための法智忍と類智忍が存在する。この四つの智慧は法智忍→法智→類智忍→類智の順番で起こり、まず苦諦をこの四つの智慧で観察し、その後、残りの集諦・滅諦・道諦を観察する。一つの智慧が生起している時間は一刹那であり、四諦のそれぞれを四つの智慧で一刹那ずつ観察するわけであるから、四諦の理解にかかる時間は計一六刹那であり、この一六刹那の体験が『俱舎論』の説く四諦の現観である。大乗仏教では、部派仏教のこのような現観を批判的に受容し、例えば『摂大乗論』では「菩薩の現観の声聞と異なること、十一種の差別によるとまさに知るべし」（正蔵三一・一四三中）と述べる。これは大乗の現観が声聞のそれに勝るものであることを主張し、その第一に菩薩の現観が大乗法を対象とすることを述べ、声聞との現観の違いを明らかにするものである。現観については、この他にも仏教諸派において様々な見解があるが、現観が煩悩を絶つために重要なものであることは、おおよそ共通している。

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【参考】早島鏡正「abhisamaya（現観）について」（印仏研究四—二、一九五六）、櫻部建・小谷信千代『俱舎論の原典解明　賢聖品』（法蔵館、一九九九）

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【参照項目】➡見道、四諦

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【執筆者：石田一裕】