対治
提供: 新纂浄土宗大辞典
たいじ/対治
道(涅槃に至る修道過程)によって煩悩を断じること。ⓈpratipakṣaⓉgnyen poの訳。梵語Ⓢpratipakṣaは反対や敵を意味する語であるが、仏教では煩悩の反対、すなわち道を特に対治という。『俱舎論』二一(正蔵二九・一一一上中)によれば、見所断・修所断の煩悩の中で、修所断の煩悩は対治によって断じられるとする。また、その対治は四道に対応して、加行道による厭患対治、無間道による断対治、解脱道による持対治、勝進道による遠分対治の四種があるとする。また、『十地経論』四(正蔵二六・一四六上~八上)によれば、菩薩が十善業道を実践するために、十不善業道それぞれから遠離する方法の一つに「対治の離」が挙げられ、殺生に対しては一切の衆生に安穏の心と慈心を生じること、劫盗(偸盗のこと)に対しては布施すること、邪婬に対しては現在の梵行などが「対治の離」とされている。個々の障害を対症的に断じることから、病気治療の意味にも用いられ、後世「退治」の字を当てて、討ち取る・こらしめるの意味をも持った。
【参考】小谷信千代・本庄良文『俱舎論の原典研究 随眠品』(大蔵出版、二〇〇七)
【参照項目】➡道一
【執筆者:榎本正明】