菩薩戒
提供: 新纂浄土宗大辞典
ぼさつかい/菩薩戒
菩薩が受持する戒のこと。『瑜伽論』四〇が菩薩戒は在家と出家に適用されるとしたうえで「又、即ち此れ在家出家二分の浄戒に依りて略して三種を説く。一には律儀戒、二には摂善法戒、三には饒益有情戒なり」(正蔵三〇・五一一上)と指摘するように、菩薩戒とは三聚浄戒であると定義されよう。ただし三聚浄戒のうち瑜伽論系の律儀戒は七衆の別解脱律儀であって、在家であれ出家であれ初期仏教から部派仏教に至る系統の戒がそれぞれに適用される。それまでの戒が律儀だけであるのに対し摂善法戒と饒益有情戒の受持を説く点に菩薩戒の特色があるとされるものの、旧来の律儀に大乗思想的な要素を加味したものとも言い得よう。なお、それまでの受戒には羯磨師・教授師・和上の三師と七人の証人を必要とするのに対し、菩薩戒の場合は戒師一人に十方の仏・菩薩の証明があれば成立する。中国では天台智顗により菩薩戒として『梵網経』『菩薩瓔珞経』等の所説のものが着目され、さらに湛然が『十二門戒儀』と称される『授菩薩戒儀』において三聚浄戒を授ける次第を明かすにあたり、律儀の具体的な条文として『梵網経』に説かれる十重禁戒を示した。菩薩戒は在家・出家の菩薩が共通に受戒する通受戒であり、出家には別途、三師七証による別受の受戒を要したが、日本の最澄は菩薩戒として通受とされる『梵網経』所説の梵網戒のみを受持する出家を主張し、梵網菩薩戒によって比丘を称するという日本天台独特の制度を生み出した。浄土宗の円頓戒もそうした流れのうえにある。
【参考】平川彰『平川彰著作集七 浄土思想と大乗戒』(春秋社、一九九〇)、石田瑞麿『仏典講座一四 梵網経』(大蔵出版、一九七一)、速水侑『日本仏教史 古代』(吉川弘文館、一九八六)、宮林昭彦「『授菩薩戒儀』解題」(聖典五)
【執筆者:袖山榮輝】