選択集の謗難書
提供: 新纂浄土宗大辞典
せんちゃくしゅうのぼうなんしょ/選択集の謗難書
法然の主著『選択集』の内容を批判する書物の総称。専修念仏宗の布教内容や行状に対する批判は、『選択集』撰述以前より、南都・北嶺等から度々起こり、『選択集』が世に出ると、その反駁書が著されて専修念仏への批判がさらに強まった。これらの中には現存書と逸書とがある。(一)現存書①『摧邪輪』三巻(明恵撰、一二一二)—『選択集』における菩提心・善導義・念仏・諸行・聖道門等の解釈に対して、仏法に非ざる内容であると批判を展開する。②『摧邪輪荘厳記』一巻(明恵撰、一二一三)—『摧邪輪』の内容を補足する目的で撰述された。③『守護国家論』一巻(日蓮撰、一二五九)—仏の教えには権教と実教とがあり、『選択集』は権教であり『法華経』は実教であることを示したうえで、権教が実教を廃捨する謗法の書であるとして批判する。④『災難対治鈔』一巻(日蓮撰、一二六〇)—国土に起こる災害ならびに兵乱等の種々の災難の根源は、正法を誹謗する『選択集』とその弘布にあると主張する。⑤『立正安国論』一巻(日蓮撰、一二六〇)—天災・疫病・飢饉等の災難の原因は、善神・聖人が国を去り、悪比丘による邪智が国に充満したことに因るとし、さらにその根源は『選択集』が聖道門を「捨閉閣拋」の対象として誹謗し廃捨した点にあるとする。内容は客と主人との問答体によって展開する。日蓮の『選択集』ならびに法然批判には以上の他にも『災難興起由来』(一二六〇)、『浄土九品之事』(一二六九)など多数が現存する。⑥『選択集述疑』二巻(撰者・撰年未詳)—『選択集』が諸行は非本願であり往生行ではないとする点を挙げ、聖道門ならびに諸行往生の立場から一〇項目にわたって批判を展開する。⑦『真言宗欣求安養鈔』上巻のみ現存(撰者・撰年未詳)—『選択集』の内容をふまえ、また文言を引用して、真言宗の立場から、仏身仏土・難易二道・修行規則・顕密二行・時機相応等、二四項目にわたって批判を展開する。(二)逸書①『浄土決疑鈔』三巻(園城寺公胤、一一九六頃)—『四十八巻伝』『正源明義鈔』によれば、読誦大乗も法華読誦も往生行であり、称名念仏のみが往生行であるとするのは偏執であると批判する。②『弾選択』一巻(定照、一二二五頃)—『明月記』によれば、本書は専修念仏衆の奇怪な行動に対して意見するものであることを記す。③『顕選択難義抄』一巻(撰者・撰年未詳)。
【所収】『摧邪輪』(『鎌倉旧仏教』岩波書店、一九九五/浄全八/日蔵七四)、『摧邪輪荘厳記』(浄全八/日蔵七四)、『守護国家論』『災難対治鈔』『立正安国論』『災難興起由来』(『昭和定本日蓮聖人遺文』一)、『浄土九品之事』(『昭和定本日蓮聖人遺文』三)、『選択集述疑』(『金沢文庫資料全書』四「浄土篇一」)、『真言宗欣求安養鈔』(『真言宗安心全書』下)
【資料】『四十八巻伝』四〇(聖典六・六一三~九/法伝全二五三~六)、『正源明義鈔』六・九(法伝全八六九・九〇四)、『明月記』三「安貞元年九月三日条」(国書刊行会)、『顕選択難義抄』(『金綱集』五「浄土見聞集下」〔『日蓮宗宗学全書』乾〕二一九)、『選択集叢林記』一(真宗全書一七)、『選択之伝』(浄全八)
【参考】石井教道『選択集の研究 註疏篇』(誠文堂新光社、一九四五)、望月信亨「専修念仏に対する当時諸家の論難攻撃」(『仏教史の諸研究』望月仏教研究所、一九三七)、高瀬承厳「浄土決疑鈔製作の年代について」(『摩訶衍』一—二、一九二〇)、石指浩絃「日蓮聖人遺文における『守護国家論』の位置」(『日蓮教学研究所紀要』九、一九八二)、平雅行「建永の法難について」(『日本中世の社会と仏教』塙書房、一九九二)、宮井義雄「日蓮の宗教と専修念仏」(『日本宗教史の中の中世的世界』春秋社、一九九三)
【執筆者:米澤実江子】