バラモン教
提供: 新纂浄土宗大辞典
バラモンきょう/バラモン教
古代インドの宗教。バラモン教(婆羅門教)はブラフマニズム(Brahmanism)の邦訳。後に展開するヒンドゥー教の前身として区別をはかるために、英国の学者によって名付けられた。紀元前一五〇〇年頃からインドのパンジャーブ地方に侵入し、定住を始めたインド・アーリヤ人は、もともと保持していた自然崇拝をもとに、前一二〇〇年頃には、神々と交信し意思の疎通を図ることができるシャーマンたちが編纂する天啓書、『リグ・ヴェーダ』(ⓈŖg-veda)聖典という神々への讃歌を創り上げた。このシャーマンをバラモン(Ⓢbrāhmaṇa)といい、人々に神々との交信を託され、祭式を司る祭官としてインド社会における階級制度(カースト制度)の頂点を極めた。バラモン教はヴェーダ聖典の時代区分によって、さらに三つのヴェーダ、『サーマ・ヴェーダ』(ⓈSāma-veda)、『ヤジュル・ヴェーダ』(ⓈYajur-veda)、『アタルヴァ・ヴェーダ』(ⓈAtharva-veda)が揃う前一〇〇〇年頃までを本集の時代、前八〇〇年頃を『ブラーフマナ』(ⓈBrāhmaṇa)の時代、それに続く『アーラニヤカ』(ⓈĀraṇyaka)を経て、前五〇〇年頃からを『ウパニシャッド』(ⓈUpaniṣad)の時代とする。本来は自然神を崇拝する多神教であったが、同時に多くの神を信仰するものではなく、F・マックス・ミューラーが名付けたように必要に応じて主神を選ぶ交替神教である。それゆえ主要な神々には上下の区別がなく、最高神というものの存在はなかったが、『リグ・ヴェーダ』の最終章、第一〇章ではそのことに対する疑問が出始め、根本原理ともいうべき唯一なるものへの探求が始まる。さらに『ブラーフマナ』では宇宙唯一の根本原理としてブラフマン(Ⓢbrahman、梵)が、『ウパニシャッド』では個人存在の本体としてアートマン(Ⓢātman、我)が見いだされ、それらは本来同一であるとする「梵我一如」の思想を生んだ。この唯一普遍なるものを自我に見いだすことにより、自己の観察というべき瞑想を主体とした実践哲学が確立され、さらには自我の普遍性にともなって、「輪廻」とその原因たる「業」、そしてそこからの解放である「解脱」の思想が生まれ、その後のインド思想、宗教の根幹をつくることになった。
【参照項目】➡ウパニシャッド、ヴェーダ、ブラフマン、アートマン、梵我一如、ヒンドゥー教、バラモン
【執筆者:吹田隆道】