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多神教

提供: 新纂浄土宗大辞典

たしんきょう/多神教

複数の神々を同時に信じる宗教体系を言い、古代オリエント、ギリシア、ローマ、ヒンドゥーの宗教などにみられる。動植物はもちろん、山、川、岩石などの無生物にまで精霊が宿ると信じるアニミズムも一種の多神教とする捉え方もあるが、アニミズム精霊崇拝の崇拝対象が一個の特性をそなえた個体的性格をもつものとして受けとめられるときに、神としての姿を獲得する。神々は動植物や自然物の形を取ることもあるが、多くは(少なくとも部分的には)人間の形姿で表現されることが多い(神人同形観)。これらの神々は一神教の絶対的な力をもつ超越神と異なり、受験は天神様で、安産は水天宮といったように、神々の力は相対的で、機能は分業的であるが、人間生活の喜怒哀楽と親しく交わる存在として受容されている。また一方で、一部にみられる動物神や異様な顔をもつ神々の形姿は、人間と神々の存在との本質的な異質性を表現するものと理解することができる。なお、仏教は当然、神への信仰を中心とするものではないが、他の宗教の神々を積極的には否定せず、さまざまな形で共存がなされている。インドでは土着の古代の神々が「天」として認められ、中国では儒仏道の三者間において激しい抗争が繰り広げられたが徐々に三教一致の方向に共調してゆき、日本では仏と神への信仰が混淆した神仏習合の文化が発展した。このように事実上、仏教多神教的な性格を持つに至ったということができる。


【参考】本村凌二『多神教と一神教—古代地中海世界の宗教のドラマ』(岩波新書、二〇〇五)、久保田展弘『日本多神教の風土』(PHP新書、一九九七)、タイラー著/比屋根安定訳『原始文化』(誠信書房、一九六二)


【参照項目】➡一神教


【執筆者:挽地茂男】