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蓮華蔵世界

提供: 新纂浄土宗大辞典

れんげぞうせかい/蓮華蔵世界

華蔵世界蓮華荘厳世界海(以上『華厳経』)、蓮華台世界蓮華台世界海(以上『梵網経』)ともいう。Ⓢkusuma-tala-garbha-vyūhālaṃkāra-loka-dhātu-samudra、Ⓢpadma-garbha-loka-dhātu。泥中に染まらず、そこから華を咲かす蓮に譬えられる世界観。ヴィシュヌ神やブラフマ神の出現とも関係し、発想自体はバラモン教世界観に求められる。仏教においては特に『華厳経』所説として有名。説明については『華厳経』と『梵網経』の二説があり、解釈については華厳宗浄土教密教等の各立場から議論がある。大乗仏教世界観とも密接に関係する。大乗仏教は、原則である「一仏国土一仏」を踏まえて、多仏国土を宣説し、「同時多仏」を積極的に容認した。この流れを汲んだものが浄土教経典や華厳経典などの仏国土経である。例えば『無量寿経』では法蔵菩薩誓願行を承けて極楽世界、『阿閦あしゅく仏国経』では阿閦菩薩誓願行を承けて妙喜世界が成就する。蓮華蔵世界も基調を等しくし、盧遮那仏(ⓈVairocana、毘盧舎那、舎那、毘楼遮那)が前世の誓願行の果報として成就した世界である。『華厳経』では盧遮那仏釈迦仏とは同体とされ、蓮華蔵世界の因位は釈迦菩薩行に求められる。この立場からは我々の娑婆世界蓮華蔵世界となる。『華厳経』所説の蓮華蔵世界の構造は『八十華厳』華蔵世界品に詳しい。茎から華までの蓮華の構造に世界観が投影されている。蓮華の茎節にあたる多数の風輪の最上部に、香水海という水の溜まりがある。そこから上方に華(大蓮華)が伸びる。その花托の中央にさらに別の香水海が広がり、その中に無数の蓮華の種がある。その種は世界を構成することから世界種という。各世界種の内部には二〇の世界が重なっている(娑婆世界は「普照十方熾然宝光明世界種の下から第一三層目)。発想としては一つの種の中に、より小さな種が詰まったもので、世界種中の二〇の各世界もそれぞれ無数の世界によって囲まれている。つまり細の中に多数の微細が立体的に調和共生しており、同様の世界種が無数に香水海上に存在している。このように、諸世界蓮華に蔵している点から、あるいは諸世界蓮華を母胎とする点から、「蓮華蔵」世界という。誓願行に基づく、この蓮華蔵世界の成就経緯は浄土教経典と等しいが、ここには広大無辺の仏国土・仏・衆生が矛盾なく存在しており、単なる一世界浄土でないことは明らかである。蓮華蔵世界は全諸世界を包摂した、いわば宇宙概念の総称ともいえよう。この点が同じ仏国土経であっても浄土教経典との決定的な違いである。奈良東大寺の大仏像は『梵網経』所説の蓮華台世界象徴している。


【参考】石井教道『華厳教学成立史』(石井教道博士遺稿刊行会、一九六四)、定方晟『インド宇宙誌』(春秋社、一九八五)、大橋俊雄『仏教の宇宙』(東京美術、一九八六)


【参照項目】➡華厳経梵網経盧遮那仏


【執筆者:中御門敬教】


世親往生論』に見出される語。同書では極楽世界が「安楽国」「阿弥陀仏国」「安楽世界」などの語で説かれるが、これとは別に同論末尾の入出二門第三宅門に「蓮華蔵世界」が説かれる。毘盧遮那仏蓮華蔵世界阿弥陀仏極楽世界の関係については古来、議論が行われてきた。まず本文の『往生論』には「入の第三門とは、一心専念に彼に生ぜんと作願して、奢摩他しゃまた寂静三昧の行を修せるを以ての故に、蓮華蔵世界に入ることを得。是れを入第三門と名づく」(聖典一・三七一/浄全一・一九八)とある。曇鸞往生論註』に議論はないが、良忠往生論註記』にはまとまった記述がある(浄全一・三四〇上~下)。八世紀の三論学者、智光無量寿経論釈』(現存せず)に蓮華蔵世界が「無量寿仏所居」とされる点、『秘蔵記』により蓮華蔵世界極楽世界の同体である点がまず紹介される。そして良忠祖師の説を承けて、国土が同体でも両者の性質が異なる点に注目し、極楽世界を「蓮華蔵世界受用土」と示した。また彼の弟子道光も『論註拾遺鈔』において師と同じく、智光によって蓮華蔵世界が「無量寿仏所居」とされる点を示す(浄全一・六六三上~下)。ただし智光は『群疑論』所説によって浄土の「理・事」の二面性を強調し、その各浄土への往生の仕方、ならびに密教の立場から極楽世界は「智」に順じ、蓮華蔵世界は「理」に順ずるものであり、「理智不離」の故に両者が「一土」であることを示している。これらの解釈の素地は、例えば中国華厳宗の澄観『大方広仏華厳経疏』によって毘盧遮那仏阿弥陀仏の同体説がいち早く説かれたように(正蔵三五・九六二中)、伝統的仏身観の議論に求められよう。このように、『往生論』に対する伝統的解釈と華厳教学の面から、極楽世界蓮華蔵世界の一面を指すと理解されてきた。またこの「蓮華蔵世界」だけでなく、『往生論』の骨格である「五念門」と瑜伽ゆが行派所説を介した華厳系誓願「普賢十大願」との有機的関係など、『往生論』の成立背景には『華厳経』が大きな位置を占めている。


【参考】石井教道『華厳教学成立史』(石井教道博士遺稿刊行会、一九六四)、望月信亨『浄土教の起原及発達』(山喜房仏書林、一九七二)、武内紹晃、ツルティム・ケサン、小谷信千代、櫻部建『龍樹・世親 チベットの浄土教 慧遠』(『浄土仏教の思想』三、講談社、一九九三)、松濤泰雄「念仏と業 普賢行願讃から五種正行へ」(浄土宗総合研究所編『現代における法然浄土教思想信仰の解明』浄土宗総合研究所、二〇〇〇)


【執筆者:中御門敬教】