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浄土宗労働共済会

提供: 新纂浄土宗大辞典

じょうどしゅうろうどうきょうさいかい/浄土宗労働共済会

労働者のための安価な宿泊施設提供事業を中心に、宗祖七〇〇年遠忌記念事業として創設された防貧事業を展開した隣保事業。創立者は渡辺海旭。ドイツ留学から帰国後にドイツ『労働者の家』(アルバイテンハイム)の影響によって事業を構成し、明治四四年(一九一一)三月、東京・深川において実践を開始した。その事業の理念は相互扶助的発想、仏教有機体説に基づく「慈悲平等性」を挙げることができる。また、仏教の報恩思想による差別感克服や、社会的救済をなすための人類相愛と防貧の実践を試みている。その活動は、渡辺がドイツ留学中に得た見識に基づき、この共済会で時代に即した社会的事業の展開をめざしたもので、宗派を超越した仏教社会事業の先駆的指導への実践に連なっている。この先駆的指導がのちの浄土宗社会事業の展開への布石にもなった。また、機関紙『労働共催』は渡辺を主筆とし、大正四年(一九一五)一月から同一〇年三月までに全六七冊が発行されており、当時の仏教者・社会事業家が寄稿、労働問題に関わる情報を提供している。「協調の精神」を重視する仏教者らの社会的事業実践の歴史的意義を検証し、現在の社会福祉、労働関係を考える上で研究者にとって貴重な資料である。


【参照項目】➡浄土宗の社会福祉事業


【執筆者:落合崇志】