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法然上人秘伝

提供: 新纂浄土宗大辞典

ほうねんしょうにんひでん/法然上人秘伝

三巻。隆寛撰述とされる法然伝。撰述年は不明。近世に創作された伝記と考えられていたが、高野山中院御坊の書庫において妻木直良により室町期の古写本が発見され、また禿氏祐祥とくしゆうしょうも室町期の古写本を発見し中世にできた伝記であることがわかった。ただし隆寛撰述については、『翼賛』の指摘にあるように、嘉禄の法難などの隆寛滅後の記述が伝記の中にふくまれていることから疑撰と考えられており(浄全一六・一〇六上)、了祥、玄智という浄土真宗の学匠も同様に隆寛疑撰としている。内容は漢文と仮名の混合体で松虫・鈴虫阿波介あわのすけなど創作的な説話が多く含まれていることに特色があり、大原問答や『選択集』撰述という史実に基づいた記述はみえない。対象が庶民層にむけられており、談義僧が布教教化に使用した書と考えられている。


【所収】『仏教古典叢書』、浄全一七、法伝全


【参考】妻木直良「法然上人秘伝解説」(『仏教古典叢書』国書刊行会、一九八四)、井川定慶『法然上人絵伝の研究』(法然上人伝全集刊行会、一九六一)、三田全信『成立史的法然上人諸伝の研究』(光念寺出版部、一九六六)


【参照項目】➡隆寛


【執筆者:伊藤茂樹】