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普賢菩薩

提供: 新纂浄土宗大辞典

ふげんぼさつ/普賢菩薩

文殊菩薩と並ぶ釈迦三尊の一(『華厳経』)、法華行者の守護尊(『法華経普賢菩薩勧発品)、懺悔の教主(『観普賢菩薩行法経』)など多彩な性格を持ち、広く大乗仏典に登場する菩薩。ⓈSamantabhadraの訳語。遍吉とも訳される。音写して三曼陀跋陀羅さんまんだばだら。一般的に文殊菩薩智慧に対し、普賢菩薩慈悲象徴する。文殊菩薩智慧慈悲のはたらきのうち、慈悲の役割に特化した菩薩。起源としては文殊菩薩誓願行を実践する者が、後に固有名詞化されたと考えられている。その経緯は〈普賢行願讃〉の初期異訳が『文殊師利発願経』と呼ばれることからも知られる。また古訳には『三曼陀跋陀羅菩薩経』が存在し、そこではいち早く普賢菩薩懺悔随喜勧請回向、ならびに阿弥陀仏信仰が結びついている。これを承けた先の〈普賢行願讃〉は懺悔をはじめとする顕密共通の行法(七支供養)や、チベット浄土教で隆盛する極楽往生後の利他的側面を強調して説き、『無量寿経』との相補的関係が知られる。密教においては胎蔵界中台八葉院・文殊院、金剛界第二院などに登場し広く活躍する。中国では『四十華厳』四〇に説かれる普賢十大願が有名であり、華厳家によって数種類の注疏が撰述された。天台宗の理解としては、智顗法華文句』や吉蔵『法華義疏』などが有名。前者『文句』において普賢菩薩妙覚位直前の等覚位に住し、十四夜に喩えられる存在である。ちなみにこれは一生補処いっしょうふしょ(華厳的立場では第十地)にあえて悟入しない行相である。後者『義疏』においては「普賢」自体の語義解釈法身応身的特徴が明記されている。日本においては法華懺法や普賢延命法を修会する「普賢講」の主尊として平安末期から広く信仰された。また普賢十羅刹女像を介した女性の追善供養も隆盛したようである。浄土教との関係でいえば、源信による『普賢講作法』が重要である。これは『四十華厳』四〇所説の普賢十大願を原拠とし、普賢菩薩結縁する講式である。そこでは普賢行成就、悪業滅尽、極楽往生が目標とされる。ただし先行する『往生要集』が念仏往生を期す一方、『普賢講作法』では誓願往生が強調される。この講式は広く市井しせいに行われたものではないが、村上天皇皇女選子内親王による『発心和歌集』(寛弘九年〔一〇一二〕)に影響を及ぼすことでも知られる。形像としては唐初期の敦煌壁画に見られる騎象きぞうが有名。一般的には六牙七足の白象王に跨がる姿として知られる。持物としては蓮華三鈷杵さんこしょ、利剣などがある。『覚禅鈔』などにその形像は詳しい。


【参考】速水侑『菩薩 仏教学入門』(東京美術、一九八二)、梶山雄一監修『さとりへの遍歴 華厳経入法界品』上(中央公論社、一九九四)、中御門敬教「楞厳院僧源信の華厳浄土義『普賢講作法』—『往生要集』との接点」(『浄土宗学研究』三三、二〇〇七)、森晴彦「『新勅撰集』釈教部の俊成—法華経持経者への普賢大士来至と道長の影」(『国文学踏査』二一、二〇〇八)


【参照項目】➡普賢行願文殊菩薩


【執筆者:中御門敬教】