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宗教社会学

提供: 新纂浄土宗大辞典

しゅうきょうしゃかいがく/宗教社会学

宗教を社会現象として捉え、宗教の社会的形態(宗教団体宗教運動の歴史・構造)や宗教と社会(国家、地域社会、家、家族、メディア等)の関係を主たる研究対象とする学問。

その歴史は、一九世紀末から二〇世紀初めにかけての西洋で始まり、E・デュルケムとM・ヴェーバーによって、その基礎が築かれた。『宗教生活の原初形態』(一九一二)を著したデュルケムは、宗教の本質を俗なるものと区別される聖なるものに求め、宗教を聖なるものをめぐる信念・行事・教会であると定義し、宗教が社会を統合する力をもつことを明らかにした。また、俗なる資本主義を成立させた原動力となったのが、宗教的エートスにもとづくキリスト教徒の聖なる実践(世俗内禁欲)であるという逆説を明らかにしたヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(一九〇五)である。

宗教と社会システムの関係を体系化したのが、一九三〇年代から七〇年代に活躍したT・パーソンズの構造機能主義であり、家族や地域社会、全体社会の維持・再生産という宗教の果たす社会統合の機能が理論化された。それに対して、人間の意味世界に注目し、宗教を聖なるコスモスを確立する人間の事業であると定義したのが、P・バーガーの『聖なる天蓋』(一九六七)である。バーガーによれば、社会を成立させている日常的な意味秩序を宇宙全体に投影したものがコスモス=聖なる天蓋であり、この聖なる天蓋が人々の生活や社会全体を意味づけ、安定させる。ところが、世俗的な領域が宗教の支配から離脱する世俗化によって聖なる天蓋が消失し、宗教は個人化し、選択や趣向の問題となったという。さらに、聖なるコスモスの基盤がもはや社会にではなく、個人にあり、世俗化を宗教の個人化と考えたのが、T・ルックマンの『見えない宗教』(一九六七)である。

こうして、一九六〇年代以降、俗なる領域から聖なるものが影響力を消失していくとする世俗化論が欧米の研究者の間で大きな話題となるが、一九八〇年代以降の世界各地におけるキリスト教の動向を取り上げ、宗教が俗なる公的領域に積極的に関わっていると分析したのが、J・カサノヴァの『近代世界の公共宗教』(一九九四)である。そこでは、宗教が果たす社会的役割の再考を提起し、世俗化論を問い直している。

こうした欧米の宗教社会学の歴史は、日本の宗教社会学の動向にも反映している。その学説史を遡れば、明治三三年(一九〇〇)の姉崎正治の『宗教学概論』に行き着く。姉崎によって、宗教学の一分野として、宗教社会学が位置づけられた地点から、日本の宗教社会学の歴史は始まった。当初、西洋の学説の輸入・紹介が中心だったが、一九三〇年代以降、農山村の民俗信仰・神社神道仏教を対象とする日本社会の聖なるものに関する実証研究がスタートし、独自の歩みを見せる。また、戦後はアメリカの社会学や文化人類学の影響で実証的・科学的な調査研究が進展した。こうした実証研究の成果として、森岡清美『真宗教団と「家」制度』(一九六二)がある。その後、高度経済成長期を経て、「宗教と社会変動」が大きな研究テーマとなり、一九七〇年代半ば以降は、新宗教研究が大きな盛り上がりを見せ、『新宗教事典』(一九九〇)という成果をもたらした。

一九九〇年代半ば以降、海外の先進資本主義諸国と同じく、日本でも宗教の個人化の表れとして、ヒーリング、セラピー、代替医療、ヨガ、瞑想等、個人の意識や身体の変容を重視するスピリチュアリティの流行が見られ、島薗進『精神世界のゆくえ』(一九九六)をはじめとするスピリチュアリティ研究が進展している。その一方、平成七年(一九九五)のオウム真理教による地下鉄サリン事件に象徴される「カルト教団を対象としたカルト研究も取り組まれており、桜井義秀『「カルト」を問い直す』(二〇〇六)等の成果がある。「カルト」とは元来、宗教集団の類型を表す学問的概念だったが、現在では、反社会的・違法的な活動を行う宗教集団を意味するようになった。カルト教団は俗なる公的領域への関わりを強調している場合が多く、このカルト問題は宗教の公共化の表れであり、これも先進資本主義諸国に共通している現象である。聖なるものの個人化と先鋭化が、現代日本社会における宗教動向の特徴であるといえよう。このような宗教の個人化と公共化という相反する世界的な宗教動向を把捉し、聖なるものと俗なるものとの関係、そして聖なるものの行方をどのように分析するのかが、現代の宗教社会学の課題である。


【参考】メレディス・B・マクガイア著/山中弘他訳『宗教社会学』(明石書店、二〇〇八)、宮家準他編『リーディングスにほんの社会学一九 宗教』(東京大学出版会、一九八六)、井上順孝編『現代日本の宗教社会学』(世界思想社、一九九四)、桜井義秀・三木英編『よくわかる宗教社会学』(ミネルヴァ書房、二〇〇七)


【参照項目】➡聖と俗


【執筆者:大谷栄一】