操作

十住心

提供: 新纂浄土宗大辞典

じゅうじゅうしん/十住心

住心とは心の状態のことで、これを一〇段階に分類したもの。空海の代表的な思想である。これには二つの見方がある。一つは衆生の心の、本能の趣くままの状態を第一段階とし、真言宗悟りの境界を第一〇段階として一〇の段階に分類する見方。二つは、その当時の思想・宗教をこの一〇の段階に対応させる見方である。それぞれの住心の名称は、第一異生羝羊いしょうていよう心・第二愚童持斎ぐどうじさい心・第三嬰童無畏ようどうむい心・第四唯蘊無我ゆいうんむが心・第五抜業因種ばつごういんじゅ心・第六他縁大乗たえんだいじょう心・第七覚心不生かくしんふしょう心・第八一道無為いちどうむい心・第九極無自性ごくむじしょう心・第十秘密荘厳ひみつしょうごん心である。第一異生羝羊心は道徳的にも宗教的にも目覚めていない本能のままに生きている状態である。第二愚童持斎心は節食し布施をするなど道徳に目覚めた状態であり、儒教などにあたる。第三嬰童無畏心は幼子が母親に抱かれて安心している状態で、インドの諸宗教道教などにあたる。第四住心以降は仏教の境界である。唯蘊無我心は五蘊の法は実在するが、我は五蘊が仮に和合したものであるから空であると悟る心で、声聞乗の教えにあたる。第五抜業因種心は十二因縁を観じて苦悩を取り除く心であり、縁覚乗にあたる。第六住心以降は大乗仏教の境界である。他縁大乗心は自分だけでなく法界有情悟りに導く教えであり、法相宗の教えにあたる。第七覚心不生心は自心の本不生を覚る境界であり、三論宗の教えにあたる。第八一道無為心は実の如く自心を知ることが悟りであると解する境界で天台宗の教えにあたる。第九極無自性心は前の顕教に比べれば極果であり、後の第十住心に比べれば初心であるとし、華厳宗の教えにあたる。第十秘密荘厳心は自心の源底を覚知し、身心の究竟を知る住心で、真言宗の境界にあたる。また、第一から第九までの住心を第十住心に至る階梯であると見てこれらの住心も密教に包含されるとする九顕十密の考え方と、第九住心までの九住心は顕教であり第十住心のみが密教であるとする九顕一密という見方もある。


【執筆者:榊義孝】