浄土宗全書を検索する
AND検索:複数の検索語をスペースで区切って入力すると、前後2行中にそれらを全て含む箇所を検索します。
巻_頁段行 | 本文 |
---|---|
J19_0344A01: | 授け給ひて奧州二本松の城主となし給ふ長重在國 |
J19_0344A02: | の時或日城下に出ける時熊野道者の農人馬に乘行 |
J19_0344A03: | を見扨扨あの馬駿足かな何とそあの馬を請へと家 |
J19_0344A04: | 來に申付候所其の家來彼道者を呼かけ城主の所望 |
J19_0344A05: | なり其方乘たる馬請ひ度と申けれはこの道者申は |
J19_0344A06: | 成程進し申べく候我等當國の在所を乘出し候より |
J19_0344A07: | 熊野參詣往來の道すがら誠に上甲の中甲と申や申 |
J19_0344A08: | さんとて即長重にあたへて去りたり是より長重其 |
J19_0344A09: | 馬を乘試に地道乘駈といひいはふやうなき鎧下の |
J19_0344A10: | 名馬なり道者のあたへたる馬なれはとてその名を |
J19_0344A11: | 道者と名付たり長重心に思ふはかかる名馬又たく |
J19_0344A12: | ひも有へからす將軍家へ献し可申とて江戸にひか |
J19_0344A13: | せ台君に献上したり公此馬に召れ候所無双の名馬 |
J19_0344A14: | のよし上意にて殊の外御賞愛遊され候へき駈を追 |
J19_0344A15: | ふ時布一反を後輪の鹽手兩方に結ひ付て追ふにそ |
J19_0344A16: | の布一文字に麾すゆへに道者の名を改めて布引と |
J19_0344A17: | 名付られたり大坂御陣の時も台君此御馬に召れた |
J19_0344B18: | り然るに公寬永九年正月廿四日薨御したまふ時御 |
J19_0344B19: | 治世の日勝れて此馬を御秘藏遊されしゆへ增上寺 |
J19_0344B20: | に牽せられ直に今の涅槃門外かけの上其比は彼境 |
J19_0344B21: | 内にて芝原成りしか此所へ放し飼にさせられ差置 |
J19_0344B22: | る馬飼は勘左衞門といふものを方丈より付置たり |
J19_0344B23: | 其子孫延享の今に至るまて大傳馬町に存在する由 |
J19_0344B24: | 也然るに彼布引なからへ居候内は毎月廿四日老中 |
J19_0344B25: | 御名代して增上寺裏門より參詣せらるるに極て朝 |
J19_0344B26: | 七つ時より裏門の内へ己と步みゆき立休らひ老中 |
J19_0344B27: | 通らるるを見かくると其儘前膝を折敬ひ居て其儘 |
J19_0344B28: | 歸りたり終に一度にても違ふ事なし誠に人間の所 |
J19_0344B29: | 爲にも恥さる事也此馬年を經て死したる時一山其 |
J19_0344B30: | 名馬たる事を感するの餘り方丈より彼馬を境内に |
J19_0344B31: | 埋に幅尺餘竪八尺餘厚六七寸許りなる釼形にした |
J19_0344B32: | る石塔を本尊として堂を作り馬頭觀音を安置す是 |
J19_0344B33: | 今の世に至て諸人參詣す涅槃門の内觀音堂是也依 |
J19_0344B34: | て此堂の主はかの文周か子孫永代所持たるもの也 |