浄土宗全書を検索する
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巻_頁段行 | 本文 |
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J19_0288A01: | られし時分或夜九ツ比に風と晩の御看經を忘れさ |
J19_0288A02: | せ給ひしを思召出されけるにもはや近習の衆も臥 |
J19_0288A03: | ければ御自身燈明をかかけ香をささけ御持佛堂に |
J19_0288A04: | て御看經有けるに御寢所にて何かは知らす物音騷 |
J19_0288A05: | しければ家康公怪敷思召看經を御仕廻被成御寢所 |
J19_0288A06: | へ入らせける處に十四五歳の童御夜着の上にまた |
J19_0288A07: | かり刀を拔て御夜着を疊迄突貫たり家康公後より |
J19_0288A08: | 彼少人を御捕へ有て仰られけるは汝何者に賴れ斯 |
J19_0288A09: | 城内へ忍ひ入我を害せんとす其樣子包ます申すべ |
J19_0288A10: | し然らは命を助返さんと仰ける少人答て成程主人 |
J19_0288A11: | の仰に依て城中へ忍入候去なから露顯の上は早早 |
J19_0288A12: | 死を賜るへしと云家康公御心中に思召候は未若輩 |
J19_0288A13: | の身として主命を重んし命を捨て城中へ忍ひ入事 |
J19_0288A14: | 大勇忠信の者なりたとへ渠一人助け返せはとて何 |
J19_0288A15: | 程の事あらんと思召汝忠信の者なれは命を助る也 |
J19_0288A16: | 幸ひ知る者もなし早早城を出て歸るべしと仰けれ |
J19_0288A17: | は少人承り命を助下さるへきとの義有難く存候去 |
J19_0288B18: | なから罷歸候ても主人へ何と申へきや此上は御慈 |
J19_0288B19: | 悲に疾く死罪に行はれ下さるへしと聞も潔く申け |
J19_0288B20: | り容顏の美なるといひ心剛成若者と惜ませ給ひ色 |
J19_0288B21: | 色に歸るやうに仰ありといへとも承引せず兎角の |
J19_0288B22: | 問答に夜も明けければ御家老伯耆守を召出され彼 |
J19_0288B23: | 少人を御預け被成何卒たましすかし本國へ歸候樣 |
J19_0288B24: | にも仰含らる依て伯耆守色いろすかしなだめ歸國 |
J19_0288B25: | をすすめたれ共少人か心金石の如くにて一圓合點 |
J19_0288B26: | せす主人への申分けなし兎角一時も早く死をたま |
J19_0288B27: | はる事御情ならんと云不便には思召候へ共今は是 |
J19_0288B28: | 非なく切腹仰付られける死骸を菩提所へ送り跡念 |
J19_0288B29: | 比に御吊被成けるとそ誠に慈悲ある御大將也此も |
J19_0288B30: | のは武田勝賴の小姓也何卒家康公を害し奉らんと |
J19_0288B31: | てかく計ひけるとなり然るに黑佛の加護によつて |
J19_0288B32: | 危き難を遁れ給ふと彌本尊を御崇敬有けり慶長年 |
J19_0288B33: | 中大阪冬御陣の事なるに味方の軍勢一方の持口 |
J19_0288B34: | 城を責る然るに城兵命を捨て拒み戰ふて敗る事能 |