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J2760 略伝集 本会 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0512A01: 外の神韻躍然として見るへきにあらすや。師慧光門
J18_0512A02: 下に在る殆んと十二年。其間師を求めて笈を負ひ内
J18_0512A03: 外の墳典を研鑽して兼て國風に及ふ。學大に進む。
J18_0512A04: 然とも雞群一鶴の伍にあらす枳棘竟に鳳雛を棲しむ
J18_0512A05: る能はす。靈雲の同宿勃蹊して互ひに妬心を懷き事
J18_0512A06: に藉つて相鉤距し。終に師を譴するに不直の事を以
J18_0512A07: てす。慧光長老已ことを獲す師を諭して退出せし
J18_0512A08: む。師は是に於て飄然再ひ孤立の生涯に入る。想ふ
J18_0512A09: に方に春秋十八九。野鶴閑雲山川域を隔てす。師は
J18_0512A10: 涙を揮つて靈雲の門を謝してより。雙鞋隻囊天下の
J18_0512A11: 名山靈地を跋涉するもの三五年。卒に錫を吉野山西
J18_0512A12: 行菴に掛け。草衣木食唯た道維れ思ふ。乃ち歌ふて
J18_0512A13: 志を言ふ『苔淸水汲ほすほともなき身にもとくとく
J18_0512A14: 落る我涙かな』『露の身の置所とて草の菴の出て人
J18_0512A15: ることに袖は濡けり』戯歌集白雲扉を鎖して室閑寂蒼
J18_0512A16: 苔巖を封して水淸冽。是れ西行法師の。淺くともよ
J18_0512A17: しや又汲む人はあらじ我に事たる山の井の水。の詠
J18_0512B18: を遺せるところ芭蕉翁の。露とくとく試みに浮世そ
J18_0512B19: かはや。の唱和に鳴れる苔の淸水と爲す。師か此に
J18_0512B20: 棲遲して悟未た徹せす靈泉に濯ひて感慨し。俯仰低
J18_0512B21: 回永言に托して古賢を忍ふの意嫋嫋として餘韻を掬
J18_0512B22: すへきにあらすや』吉野の奧院金峰山あり。幽險に
J18_0512B23: して神靈の窟宅するところなり。師は常に此に往來
J18_0512B24: して苦修練行し利刀一割尅日獲果を期す。師の自叙
J18_0512B25: に曰く『焚臂燈掌剝皮刺血。供佛祇法。進心
J18_0512B26: 毅直。悔懺夙殃祈乞冥助。或抛身於千有餘仭
J18_0512B27: 之懸崖忘己尅苦。或斷穀於百又餘旬之居諸畢
J18_0512B28: 命爲期。以求一切種智之要道』問津訣師か精進勇猛
J18_0512B29: 洵に斯の如きものあり。往古之高僧と雖も以て多く
J18_0512B30: 尚ふるなし。嘗て聞く閻浮之人遭苦發心すと師實
J18_0512B31: に之れ有り焉。然と雖も猶未た一旦廓然たるものあ
J18_0512B32: らさるなり。師は深く其業重く障厚ふして永く凡地
J18_0512B33: に淪滯するを愧ち。涕涙潜潜氣息皆な殫く。一夜巖
J18_0512B34: 下に困頓して瞑目唯た死の至るを徯つ。山氣峻峭苔

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