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J2730 学信和尚行状記 慧満・僧敏 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0312A01: 此日弟子俊峰に向ひて。三種の愛心といふものはい
J18_0312A02: かにともしがたきものなり。しかれども他力本願に
J18_0312A03: 乘じて。多年念佛熏修せるたふとさには。心中一點
J18_0312A04: の曇りなし。かならず苦慮とすべからず安心すべし
J18_0312A05: とぞまうされける。古人のいはゆる老僧別有安閑
J18_0312A06: 法。八苦交煎總不妨といへる。思ひ合されてたふ
J18_0312A07: とし
J18_0312A08: きのふけふは。師の念佛せらるる聲。たた輕聲。ま
J18_0312A09: たは寂然として見えしゆゑ。弟子等御心たしかにま
J18_0312A10: しますかととひければ。師うち笑て。寶池・寶林・
J18_0312A11: 寶樓・寶閣・大寶宮殿阿彌陀佛。南無阿彌陀佛。阿
J18_0312A12: 彌陀佛。常にこれなりとなん答へられける
J18_0312A13: 師四五年のまへより。みづから此寶池寶林等の廿六
J18_0312A14: 字を一紙にしるして。壁上に粘置せらる。弟子等何の
J18_0312A15: ためといふことをしらざりしが。今かく告られしをも
J18_0312A16: て思ふに。平生常に淨土依正の莊嚴を忘失せざるが
J18_0312A17: ため。かくしるして座右銘に擬せられしなるべし。
J18_0312B18: 今臨末にも正念亂れず。尋常の用心に異ならざるを
J18_0312B19: 見て人皆奇特の思ひをなせり。
J18_0312B20: 評云。師尋常。日課念佛の數を語らず。その念數
J18_0312B21: をくるだに他見をはばかりて衣裏に包まれしをも
J18_0312B22: て思ふに。今臨末にいたりても。心念輕聲のみに
J18_0312B23: て高聲ならざりけるなり。これ師平生の修鍊にあ
J18_0312B24: りて。攝心自得せるなるべし。我なみ若これに習
J18_0312B25: ひて。臨終念佛せずともよしなど思はば。やがて
J18_0312B26: 怠りと成ぬべし。ただ師の外相にかかはらず。内
J18_0312B27: 心寂靜として念佛せられしありさまを推知すべ
J18_0312B28:
J18_0312B29: 六日。人のもとめに應じて。名號を書寫せらる筆力
J18_0312B30: 平生にたがふことなし。
J18_0312B31: 七日惠滿枕頭にありて看護す。師昨日より頭北面西
J18_0312B32: にふしたるままにて。少も身を轉ぜず。安靜として在
J18_0312B33: けるが正午の時にいたりて。たちまち頭をうごか
J18_0312B34: し。高聲に。ああととなへらるること三遍なりしか

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