浄土宗全書を検索する
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巻_頁段行 | 本文 |
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J18_0312A01: | 此日弟子俊峰に向ひて。三種の愛心といふものはい |
J18_0312A02: | かにともしがたきものなり。しかれども他力本願に |
J18_0312A03: | 乘じて。多年念佛熏修せるたふとさには。心中一點 |
J18_0312A04: | の曇りなし。かならず苦慮とすべからず安心すべし |
J18_0312A05: | とぞまうされける。古人のいはゆる老僧別有安閑 |
J18_0312A06: | 法。八苦交煎總不妨といへる。思ひ合されてたふ |
J18_0312A07: | とし |
J18_0312A08: | きのふけふは。師の念佛せらるる聲。たた輕聲。ま |
J18_0312A09: | たは寂然として見えしゆゑ。弟子等御心たしかにま |
J18_0312A10: | しますかととひければ。師うち笑て。寶池・寶林・ |
J18_0312A11: | 寶樓・寶閣・大寶宮殿阿彌陀佛。南無阿彌陀佛。阿 |
J18_0312A12: | 彌陀佛。常にこれなりとなん答へられける |
J18_0312A13: | 師四五年のまへより。みづから此寶池寶林等の廿六 |
J18_0312A14: | 字を一紙にしるして。壁上に粘置せらる。弟子等何の |
J18_0312A15: | ためといふことをしらざりしが。今かく告られしをも |
J18_0312A16: | て思ふに。平生常に淨土依正の莊嚴を忘失せざるが |
J18_0312A17: | ため。かくしるして座右銘に擬せられしなるべし。 |
J18_0312B18: | 今臨末にも正念亂れず。尋常の用心に異ならざるを |
J18_0312B19: | 見て人皆奇特の思ひをなせり。 |
J18_0312B20: | 評云。師尋常。日課念佛の數を語らず。その念數 |
J18_0312B21: | をくるだに他見をはばかりて衣裏に包まれしをも |
J18_0312B22: | て思ふに。今臨末にいたりても。心念輕聲のみに |
J18_0312B23: | て高聲ならざりけるなり。これ師平生の修鍊にあ |
J18_0312B24: | りて。攝心自得せるなるべし。我なみ若これに習 |
J18_0312B25: | ひて。臨終念佛せずともよしなど思はば。やがて |
J18_0312B26: | 怠りと成ぬべし。ただ師の外相にかかはらず。内 |
J18_0312B27: | 心寂靜として念佛せられしありさまを推知すべ |
J18_0312B28: | し |
J18_0312B29: | 六日。人のもとめに應じて。名號を書寫せらる筆力 |
J18_0312B30: | 平生にたがふことなし。 |
J18_0312B31: | 七日惠滿枕頭にありて看護す。師昨日より頭北面西 |
J18_0312B32: | にふしたるままにて。少も身を轉ぜず。安靜として在 |
J18_0312B33: | けるが正午の時にいたりて。たちまち頭をうごか |
J18_0312B34: | し。高聲に。ああととなへらるること三遍なりしか |