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J2660 無能和尚行業記 宝洲 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0156A01: と思ひ合せ。兎角世を遁れ心儘に念佛して往生せん
J18_0156A02: と思ひ。父母妻子の歎きをは。ふつに思ひやり侍ら
J18_0156A03: ず。只何のわきまへもなく。遁世し侍る也。今あり
J18_0156A04: がたき明師の御敎訓を承りて。深く慚愧懺悔の心起
J18_0156A05: りて。身の置き所なき程に覺へ候とて。頻に涙を流
J18_0156A06: しけり。同行の僧共。いと哀に思ひて。相共に懺悔
J18_0156A07: 念佛せり。然ありければ。不思議やさばかりの苦痛
J18_0156A08: 立地に息み。剩へ臨終ちかくなるままに。現に佛菩薩
J18_0156A09: の來迎を拜し奉りし事。度度なり。かくて命終の時
J18_0156A10: 日を指し。念佛退轉なく。最後安詳にして。往生の
J18_0156A11: 素懷を遂侍りぬ。其臨末の勝相は。具に別記にあ
J18_0156A12: り。これ偏に師の敎化の力なりとて。人皆感じあへ
J18_0156A13: りける
J18_0156A14: 師善入法師に遣はす消息に云
J18_0156A15: 別後程のいまた遠からずといへとも。思ひほとんと
J18_0156A16: 胡越におなしく候。いかか其境の蓮友のいつれも懈
J18_0156A17: 怠なく。淨業相はげまされ候や。無常迅速の世なれ
J18_0156B18: は。はやあだし野の露と消にし方もあるべきと。心
J18_0156B19: 許なく存候。此地なとにも。暫時の間に。兼て思ひ
J18_0156B20: よらぬ人の。先連て鳥部山の煙と立のぼりしもあま
J18_0156B21: たこれあり候。かかるに付ても。自他共に念死念佛
J18_0156B22: の用心。大切に用意すべき事に候。此邊には只並
J18_0156B23: なみの行者ばかりにて。眞成に往生を思ひ入れ。委
J18_0156B24: しく念佛の安心など尋訪ふ人もなく。順次往生と打
J18_0156B25: 傾きたる者。おほくも見え候はねは。淺猿思ふに付
J18_0156B26: ても。其地にて。いづれもねんごろに後世物語いた
J18_0156B27: せし事。思ひ出されて。なつかしき計に候。且此方
J18_0156B28: 小島といふ里に。彌陀大佛の靈堂これあり候間。兼
J18_0156B29: 日百萬遍苦行の大願思ひ立。今十五日の日沒より。
J18_0156B30: 彼寂堂に引籠り。午時一食の外は。飮食曾て口にふ
J18_0156B31: れす。手水便利の外。更に座を起ず。隨分に相勵候
J18_0156B32: 所に。七日七夜にして。果して百萬遍成就致し畢ぬ。
J18_0156B33: 予か如き下根の身。七日にて成就すべき事とはゆめ
J18_0156B34: ゆめ思ひ寄ざる所にやすやすと成就せし事。ひとへ

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