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J2660 無能和尚行業記 宝洲 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0155A01: の中に。佛意に叶ふと叶はざるとの二つあり。一に
J18_0155A02: いにしへ智者連の遁世し給ふは。恩愛財寶等。いた
J18_0155A03: りて捨がたき事なれとも。出離の一大事には換がた
J18_0155A04: けれは。深く道理を思ひ取て。歎きなからこれを振
J18_0155A05: 捨て出家遁世し。萬事を放下して。不惜身命に佛道
J18_0155A06: 修行し給ふなり。これ眞正發心の遁世なり。二には
J18_0155A07: 今の遁世者は。さにはあらず。或は産業の乏しきに
J18_0155A08: 慍じ果。或は主君朋友などに恨を含み。或は其性〓
J18_0155A09: 惰にして。世事に退屈し。出家は萬事心安く暮す者
J18_0155A10: と心得て。いつか出家遁世の身と成て。世を安樂に
J18_0155A11: 送らん。一生は夢幻の程なりなと託て。生死の一大
J18_0155A12: 事をは露ばかりも思ひかけず。其上跡にて父母妻子
J18_0155A13: の歎くをもかへり見ず。只われひとり苦を遁れ。身
J18_0155A14: を安くせんと思ひて遁世する類ひ。世におほし。こ
J18_0155A15: れは發心僻越の遁世なり。いにしへの世を遁れ給へ
J18_0155A16: る先德連の道心深き上にすら。猶妻子に心ひかれて
J18_0155A17: 涙に咽ひ。前後をも分ぬ程なれども。道理を以て心を
J18_0155B18: 責て。あながちに世を背き給ふぞかし。然るに今時
J18_0155B19: は。世も遙かに降り。根も至りて衰へたるに。恩愛
J18_0155B20: の境に於て。一毫も不便の思ひなく。手際なる捨や
J18_0155B21: うは。いかにも心底に。大邪見の殘忍機性なる故
J18_0155B22: ならんと。推量られたり。これらは遁世の本意。既
J18_0155B23: に佛意に背き。發心正しからざる故晩節を持たず。
J18_0155B24: 頓て佛法を以て世渡る橋にとりなし。果には虚假名
J18_0155B25: 利の窠窟に陷り。他の信施を貪り。當來惡趣に墮在
J18_0155B26: する也。若かの遁世者。件の如き意地にて發心せは
J18_0155B27: 冥慮に背き侍る故。現罰にても苦痛甚しき事あるべ
J18_0155B28: し。能く此旨をいひ聞せ。佛前に於て。其邪見の心
J18_0155B29: 地を懺悔せさすべし。愚僧も此方にて念佛の序に。
J18_0155B30: 爲に懺悔すべしとぞ示されける。同法の僧歸りて。
J18_0155B31: 右の趣を具に正信に語り聞せけれは。正信はなはだ
J18_0155B32: 驚き。落涙して申けるは。扨もこれまで誤り侍り。
J18_0155B33: 誠に師の宣ふ所。毛頭も違ひ侍らず。われ家計の貧
J18_0155B34: きに付て。退屈の心起り。おのづから世の墓なき事な

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