浄土宗全書を検索する
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| 巻_頁段行 | 本文 |
|---|---|
| J18_0155A01: | の中に。佛意に叶ふと叶はざるとの二つあり。一に |
| J18_0155A02: | いにしへ智者連の遁世し給ふは。恩愛財寶等。いた |
| J18_0155A03: | りて捨がたき事なれとも。出離の一大事には換がた |
| J18_0155A04: | けれは。深く道理を思ひ取て。歎きなからこれを振 |
| J18_0155A05: | 捨て出家遁世し。萬事を放下して。不惜身命に佛道 |
| J18_0155A06: | 修行し給ふなり。これ眞正發心の遁世なり。二には |
| J18_0155A07: | 今の遁世者は。さにはあらず。或は産業の乏しきに |
| J18_0155A08: | 慍じ果。或は主君朋友などに恨を含み。或は其性〓 |
| J18_0155A09: | 惰にして。世事に退屈し。出家は萬事心安く暮す者 |
| J18_0155A10: | と心得て。いつか出家遁世の身と成て。世を安樂に |
| J18_0155A11: | 送らん。一生は夢幻の程なりなと託て。生死の一大 |
| J18_0155A12: | 事をは露ばかりも思ひかけず。其上跡にて父母妻子 |
| J18_0155A13: | の歎くをもかへり見ず。只われひとり苦を遁れ。身 |
| J18_0155A14: | を安くせんと思ひて遁世する類ひ。世におほし。こ |
| J18_0155A15: | れは發心僻越の遁世なり。いにしへの世を遁れ給へ |
| J18_0155A16: | る先德連の道心深き上にすら。猶妻子に心ひかれて |
| J18_0155A17: | 涙に咽ひ。前後をも分ぬ程なれども。道理を以て心を |
| J18_0155B18: | 責て。あながちに世を背き給ふぞかし。然るに今時 |
| J18_0155B19: | は。世も遙かに降り。根も至りて衰へたるに。恩愛 |
| J18_0155B20: | の境に於て。一毫も不便の思ひなく。手際なる捨や |
| J18_0155B21: | うは。いかにも心底に。大邪見の殘忍機性なる故 |
| J18_0155B22: | ならんと。推量られたり。これらは遁世の本意。既 |
| J18_0155B23: | に佛意に背き。發心正しからざる故晩節を持たず。 |
| J18_0155B24: | 頓て佛法を以て世渡る橋にとりなし。果には虚假名 |
| J18_0155B25: | 利の窠窟に陷り。他の信施を貪り。當來惡趣に墮在 |
| J18_0155B26: | する也。若かの遁世者。件の如き意地にて發心せは |
| J18_0155B27: | 冥慮に背き侍る故。現罰にても苦痛甚しき事あるべ |
| J18_0155B28: | し。能く此旨をいひ聞せ。佛前に於て。其邪見の心 |
| J18_0155B29: | 地を懺悔せさすべし。愚僧も此方にて念佛の序に。 |
| J18_0155B30: | 爲に懺悔すべしとぞ示されける。同法の僧歸りて。 |
| J18_0155B31: | 右の趣を具に正信に語り聞せけれは。正信はなはだ |
| J18_0155B32: | 驚き。落涙して申けるは。扨もこれまで誤り侍り。 |
| J18_0155B33: | 誠に師の宣ふ所。毛頭も違ひ侍らず。われ家計の貧 |
| J18_0155B34: | きに付て。退屈の心起り。おのづから世の墓なき事な |