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J2660 無能和尚行業記 宝洲 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0152A01: こるなるべし。これを以て思ふに。在家なぞは。殊
J18_0152A02: さら妻子眷屬財寶に至るまで。悉く愛著の境界な
J18_0152A03: り。其上日日の家業一として。生死流轉の因縁なら
J18_0152A04: ずといふ事なし。されは臨終の期には。定て生を惜
J18_0152A05: む心いよいよ深かるべし。此一大事兼て用意あるへ
J18_0152A06: き事也。若この心おこらん時には。急に兩眼をふさ
J18_0152A07: ぎ。靜かに人間一生の消息を思ふべし。設ひ望のご
J18_0152A08: とく存命たりとも。百年の齡を過べからず。其間の
J18_0152A09: 樂み。何程の事かあらん。早く此穢土を離れて不退
J18_0152A10: の淨土に到り。永劫の快樂を得んには如じと。急に
J18_0152A11: 心を引改め。偏に佛の願力を賴て。一筋に念佛し目
J18_0152A12: 出度往生の素意を遂らるべし。今此詞を以て。夢後
J18_0152A13: の記念と思ひ給ふべしと。諄諄示し申されしかは。
J18_0152A14: 同行の諸人ことごとく感涙をしたて侍りぬ
J18_0152A15: 一師或時語りて云。眞實に念佛を勤る心持は。譬へ
J18_0152A16: ば百人の盜人の中に在て。われ一人金を持たる思ひ
J18_0152A17: なるべし。世人は皆わが法財を盜まんと欲する者
J18_0152B18: 也。たまたま得たる所の法財を。相構へて盜賊の爲
J18_0152B19: に失ふべからず。これに付ても。いよいよ佛の加護
J18_0152B20: を賴み奉るへき也とぞ申されける。私に云。天台の
J18_0152B21: 止觀に。密覆金貝莫令盜見と。南山の淨心誡
J18_0152B22: 觀に。善如金玉不用他知と。明禪法印の云。人
J18_0152B23: をは人が損するなりと。これ妬て謗り。敬ひて譽
J18_0152B24: む。共にわが心行の障なり。東漸大師の宣く。すべて
J18_0152B25: 親きも疎きも。貴きも賤きも。人に過たる往生の怨
J18_0152B26: はなし。それが爲に飾る心を起して。順次の往生を
J18_0152B27: 遂ざればなりと。皆この心なり
J18_0152B28: 一師或人の念珠を麁相に搯を見て告て申されしは。
J18_0152B29: 譬へは世人の紙を買ふを見るに。一つひとつ數をよみ
J18_0152B30: て。若一錢二錢にても不足あれは。かならず改めて
J18_0152B31: 取る也。又金銀を取り遣りするを見るに隨分に吟味
J18_0152B32: して。若色あひ惡く少し切なとありても。顏を赤め
J18_0152B33: て互に諍ひ訇るぞかし。しばし計の渡世の小事を
J18_0152B34: は。大切と思ひて。念に念を入れ。永き世の苦患を助

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