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J2660 無能和尚行業記 宝洲 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0148A01: 必定なり。これは何にても。身につく藝を分別し。
J18_0148A02: 隙ひまに隨分習ひ置て。其折の用意いたすべしと諄
J18_0148A03: 諄をしへられしかは。兩人聞て驚き悅ひ。おのおの
J18_0148A04: 色代して歸へりぬ。扨兩人の内。兄は老翁の敎訓を
J18_0148A05: 眞實に受て。夫より日日奉公の暇には。寸陰を惜
J18_0148A06: て。手習或は學問算勘など。種種の藝に心寄せ。隨
J18_0148A07: 時分に稽古してけり。弟は老人の異見を疑ひ。賴た
J18_0148A08: る主人のかくばかり慈悲ふかく。萬事不足なきに。
J18_0148A09: なにしに衣類等まて取戾し追ひ出さるる事あるべき
J18_0148A10: と。更に老人の敎へを用ひず。行末の思案少もな
J18_0148A11: く。ただ明暮友同志あつまりて。大酒し。遊興勝負
J18_0148A12: などして。一藝をも習はず。空しく光陰を送り居け
J18_0148A13: り。扨年月經て。年季既に明しかは。主人兄弟の者
J18_0148A14: 共を呼て。汝等年も明し故暇を遣はす也。これまで
J18_0148A15: 其方共へあたへし所の衣類財寶。ことごとく返すべ
J18_0148A16: しとて。すなはち殘らず取返し。赤裸にて追出せ
J18_0148A17: り。かの老人の言葉少も違ひ侍らず。其時兄は兼て
J18_0148B18: 藝能を備へ。調法なりし者故。ここかしこより招か
J18_0148B19: れ。却て前の主人より十倍も能き所へ抱へられ。安
J18_0148B20: 穩に暮しけり。弟は無益に日を送りて。一藝をも習
J18_0148B21: はず。何の屑もなき者なれは。誰ありて扶持する者
J18_0148B22: もなく。路頭に伶俜て。終に餓死しけり。これは喩
J18_0148B23: なり。人間一生の消息も。又みなかくの如し。今日
J18_0148B24: 娑婆に在て。飽まで食ひ暖に衣て。常住の想をな
J18_0148B25: し。後世の苦患をかへり見ず。優優と暮す事は。か
J18_0148B26: の兄弟の者。始め何心なく。主人を賴て。豐かに暮
J18_0148B27: し居けるが如し。老人の。後の爲に藝能を嗜み置へ
J18_0148B28: しと敎へられしは。佛祖の人人に。念佛して後世の
J18_0148B29: 用意をなせと敎へ給ふか如し。兄奉公の隙には。諸
J18_0148B30: 藝を習ひ策みしは。人人後世の閙はしき中にも。隨
J18_0148B31: 分心懸て念佛を勤るか如し。弟が無智無藝にて。た
J18_0148B32: よる方なく。道路に餓死せるは。人人の佛敎を信ぜ
J18_0148B33: ずして一生徒に暮し。曾て後世の資粮を貯へずして
J18_0148B34: 遂に三惡道に墮するが如し。若しからは。兄弟二人

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