浄土宗全書を検索する
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| 巻_頁段行 | 本文 |
|---|---|
| J18_0148A01: | 必定なり。これは何にても。身につく藝を分別し。 |
| J18_0148A02: | 隙ひまに隨分習ひ置て。其折の用意いたすべしと諄 |
| J18_0148A03: | 諄をしへられしかは。兩人聞て驚き悅ひ。おのおの |
| J18_0148A04: | 色代して歸へりぬ。扨兩人の内。兄は老翁の敎訓を |
| J18_0148A05: | 眞實に受て。夫より日日奉公の暇には。寸陰を惜 |
| J18_0148A06: | て。手習或は學問算勘など。種種の藝に心寄せ。隨 |
| J18_0148A07: | 時分に稽古してけり。弟は老人の異見を疑ひ。賴た |
| J18_0148A08: | る主人のかくばかり慈悲ふかく。萬事不足なきに。 |
| J18_0148A09: | なにしに衣類等まて取戾し追ひ出さるる事あるべき |
| J18_0148A10: | と。更に老人の敎へを用ひず。行末の思案少もな |
| J18_0148A11: | く。ただ明暮友同志あつまりて。大酒し。遊興勝負 |
| J18_0148A12: | などして。一藝をも習はず。空しく光陰を送り居け |
| J18_0148A13: | り。扨年月經て。年季既に明しかは。主人兄弟の者 |
| J18_0148A14: | 共を呼て。汝等年も明し故暇を遣はす也。これまで |
| J18_0148A15: | 其方共へあたへし所の衣類財寶。ことごとく返すべ |
| J18_0148A16: | しとて。すなはち殘らず取返し。赤裸にて追出せ |
| J18_0148A17: | り。かの老人の言葉少も違ひ侍らず。其時兄は兼て |
| J18_0148B18: | 藝能を備へ。調法なりし者故。ここかしこより招か |
| J18_0148B19: | れ。却て前の主人より十倍も能き所へ抱へられ。安 |
| J18_0148B20: | 穩に暮しけり。弟は無益に日を送りて。一藝をも習 |
| J18_0148B21: | はず。何の屑もなき者なれは。誰ありて扶持する者 |
| J18_0148B22: | もなく。路頭に伶俜て。終に餓死しけり。これは喩 |
| J18_0148B23: | なり。人間一生の消息も。又みなかくの如し。今日 |
| J18_0148B24: | 娑婆に在て。飽まで食ひ暖に衣て。常住の想をな |
| J18_0148B25: | し。後世の苦患をかへり見ず。優優と暮す事は。か |
| J18_0148B26: | の兄弟の者。始め何心なく。主人を賴て。豐かに暮 |
| J18_0148B27: | し居けるが如し。老人の。後の爲に藝能を嗜み置へ |
| J18_0148B28: | しと敎へられしは。佛祖の人人に。念佛して後世の |
| J18_0148B29: | 用意をなせと敎へ給ふか如し。兄奉公の隙には。諸 |
| J18_0148B30: | 藝を習ひ策みしは。人人後世の閙はしき中にも。隨 |
| J18_0148B31: | 分心懸て念佛を勤るか如し。弟が無智無藝にて。た |
| J18_0148B32: | よる方なく。道路に餓死せるは。人人の佛敎を信ぜ |
| J18_0148B33: | ずして一生徒に暮し。曾て後世の資粮を貯へずして |
| J18_0148B34: | 遂に三惡道に墮するが如し。若しからは。兄弟二人 |