ウィンドウを閉じる

J2660 無能和尚行業記 宝洲 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0147A01: がたき信心なり。喩ていふに。世間の父母の一子を
J18_0147A02: 思ふこと淺からず。又子の親を思ふこといく程ぞや。設
J18_0147A03: ひ至孝の子といふとも。父母の子を思ふ程にはいか
J18_0147A04: があるべき。衆生の佛をしたひ奉る事も。是に准へ
J18_0147A05: て知べし。佛の衆生を憐愍し給ふ事は。父母の子を
J18_0147A06: 思ふよりも甚しと宣へり。されは思はぬ子をたに
J18_0147A07: も思ふは。親の習ひなり。まして聊もしたふ心あら
J18_0147A08: ん子を。なじかは捨べき。憶想のよはきに付ても。慈
J18_0147A09: 悲の父母をかこつべきなり。しかばかりも佛を思ひ
J18_0147A10: 奉るは。能き往生の因縁なるべし。ゆめゆめ卑下す
J18_0147A11: べからずと。示されしかは。彼僧。佛の慈悲の深重
J18_0147A12: なる事を思ひ知りて。いよいよ信心を增し。本の日
J18_0147A13: 課三萬稱を增して六萬聲となし。歡喜信受して歸り
J18_0147A14: 侍りき。私に云此事に付て。いにしへ南都勝願院の
J18_0147A15: 良徧法印。迷子を養育して。本國に還し給ひし物語
J18_0147A16: あり。併せ案ずべし。鎌倉宗要第四と載たり。
J18_0147A17: 一師或時法談の次。忙裏に間を偸みて念佛すべき
J18_0147B18: 旨。喩を以て示されける。譬へはここに兄弟二人あ
J18_0147B19: らん。兩人共に或る富貴の家に宮仕して。一所に居
J18_0147B20: 侍るなるべし。二人共に晝夜他事なく奉公しける
J18_0147B21: 故。主人も健氣なる者に思ひ。殊にいたはりて。金錢
J18_0147B22: 衣服等に至るまで。それそれに惠み與へて召仕け
J18_0147B23: り。これに依て兄弟の者いと賴母しき主人なりと思
J18_0147B24: ひ。一生はこの家に仕へて。心安く立身せんと。何
J18_0147B25: 心もなく嬉しく思ひて。朝夕奉侍しけり。爰に其隣
J18_0147B26: 家にいと親切なる老人ありて。かの兄弟二人の者を
J18_0147B27: 近づけて。密に語り聞せけるは。足下達には。主人
J18_0147B28: の心底をとくと知り申さるまじ。其方達か。當分奉
J18_0147B29: 公する間は主人言の外情あるやうなれとも。元來殘
J18_0147B30: 忍き主人にて。其方達今六七年も過ぎ。年季明け候
J18_0147B31: 時には。それまで與へ置し衣類財寶。殘なく取返
J18_0147B32: し。赤裸になして。追ひ出さるるなり。其時になり
J18_0147B33: ては。何ぞわが身に付たる藝能なければ。先へ行て
J18_0147B34: も身命を助くへき樣なく。路頭にたち。飢死するは

ウィンドウを閉じる