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J2660 無能和尚行業記 宝洲 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0146A01: の端にかかり給ふ時には。聲も惜まず。われを捨て
J18_0146A02: はいづくへかおはしますとすずろに悲しくて。嬰兒
J18_0146A03: にて侍りし時。母のものに罷り出しが。心ぼそく慕
J18_0146A04: はしく侍りしよりは。猶くらぶべくもなく悲しく侍
J18_0146A05: りて。阿彌陀佛いかにし給ひつるぞと。泣より外の
J18_0146A06: 事なしといひ侍るとなん。慈鎭和尚この入道の事を
J18_0146A07: 閑居友に載給ひて。いと細かにこそなけれども。お
J18_0146A08: のづから日想觀にあたりて侍るとて。深く感心し給
J18_0146A09: ひけり。唐の楚石禪師の。幾度開窓看落月。一生
J18_0146A10: 倚檻送斜暉となんいへるも。皆願心の切なりし
J18_0146A11: より起る所なるべし
J18_0146A12: 一師或時語られけるは。われ性として財欲ふかく。
J18_0146A13: 衣食の事なと。かれこれ思ひ煩ふこと年久し。然るに
J18_0146A14: 身の程命の程を省みてしより後は。財欲ふかき心
J18_0146A15: を。後世の勤に思ひ換へ。念佛の數遍を策さんと。
J18_0146A16: 時時增加しける間。今程十萬の日課に及べり。折に
J18_0146A17: 依て。常課の外。三萬も勤め加る事。度度なりとぞ
J18_0146B18: 申されける。およそ眞實の道人。生死の一大事を思
J18_0146B19: ふ事は。世人の名利を求て。汲汲たるが如くなるべ
J18_0146B20: し。されど道德を好む事。利名を好むが如く。賢を
J18_0146B21: 賢として欲に易ふる事は。古よりこれを難しとす。
J18_0146B22: 然るに今師の世財の貪心を飜して。出生の善貪に成
J18_0146B23: し給ふ事。いとあり難き心操なり。理趣釋に。菩薩
J18_0146B24: を大欲と名く。これ凡愚は。小利を求て大損を忘る。
J18_0146B25: 賢聖は幻妄の小欲を捨て。究竟常樂の大欲を求め給
J18_0146B26: へり。光明大師の云。淨土を貪ぜざるは無生解脱の
J18_0146B27: 障なりと。これを思ふべし
J18_0146B28: 一或遁世の僧師に問て云。某隨分に本願を信じ。往
J18_0146B29: 生の道あやふからず思ひ取て。念佛すること年久し。
J18_0146B30: されば佛願の賴母しき樣など思ひ續け候折には。寢
J18_0146B31: 食をも忘るる程になん覺へ侍る。然れども。常には
J18_0146B32: 左にもあらず。只わすれがちにのみ成行候は。いか
J18_0146B33: か侍るべきと。師答申さるる樣。それこそ凡夫の分
J18_0146B34: 劑にて侍れ。大小にも思ひいれらるる事。世にあり

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