浄土宗全書を検索する
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| 巻_頁段行 | 本文 |
|---|---|
| J18_0145A01: | しけり。師又或時。夕陽の崦嵫に隱れ給ひしを見 |
| J18_0145A02: | て。泪ぐみて側なる僧に申されしは。只今日輪の西 |
| J18_0145A03: | の山の端に入給ひし如く。我等もいつか往生の本懷 |
| J18_0145A04: | を遂べきと。いと急がるる心地して足の踏所をも忘 |
| J18_0145A05: | るる程になん覺ゆる也とて。その氣色の外に顯はれ |
| J18_0145A06: | て。貴く見えければ。傍の僧もそぞろに感涙を催し |
| J18_0145A07: | 侍りきとなん。 |
| J18_0145A08: | 私に云。師農夫の艱難を見。或は西山の落日を望て |
| J18_0145A09: | も感慨せられしは。これしばらく其一兩事を擧るの |
| J18_0145A10: | み。萬事これに准へて知べし。往生要集に。花嚴經 |
| J18_0145A11: | 淨行品の意に依て。託事觀といふ事を敎へ給へり。 |
| J18_0145A12: | これ萬事に寄せて。その心を勸發するをいふなり。 |
| J18_0145A13: | 然阿上人の云。これは行者出離の最要の用心なり。 |
| J18_0145A14: | 見る物聞く物に付き。善惡に亙りて。厭欣心を勸む |
| J18_0145A15: | る事を思ひなして。忘るべからすとなり。蓮花谷も |
| J18_0145A16: | 明徧僧都なり要集記五に見へたり殊に此事を要とし給へり。むかし增叟 |
| J18_0145A17: | かしこかりける行者なり。長明發心集三にあり初は思ひ付ずし |
| J18_0145B18: | て忘れがちなれども。練磨すれば自然に思はるる事 |
| J18_0145B19: | なり。傳へ聞く。眞壁の敬佛上人は。此事を成就し |
| J18_0145B20: | 給ふ人なりと敬佛上人の語一言芳談に多く載たり弘法大師御發心の初を。 |
| J18_0145B21: | 三敎指歸にあそばして云。看輕肥流水則電幻之歎 |
| J18_0145B22: | 怱起。見支離懸鶉則因果之哀不休。觸目勸我。 |
| J18_0145B23: | 誰能係風と以上決疑鈔裏書輕肥流水とは。好き馬車に乘て。 |
| J18_0145B24: | 世に勢ひある人をいふ。支離懸鶉とは。老衰貧賤の |
| J18_0145B25: | 者をいふなり。これらの富る者。貧き者を見るに付 |
| J18_0145B26: | ても。榮花の程なき事。前業の拙きありさまを思ひ |
| J18_0145B27: | やりて。わが道心を勸る媒なりと宣へる心なり。空 |
| J18_0145B28: | 也上人市の邊にましまして。頭に雪を載きて世路を |
| J18_0145B29: | 走る類ひ。又目の前に僞りをかまへて。悔しかるべ |
| J18_0145B30: | き後の世を忘れたる輩を見て。悲の涙にたへす。觀 |
| J18_0145B31: | 念便ありと宣ひしなど。をのづから託事觀の意な |
| J18_0145B32: | り。又いにしへ洛陽稻荷山の麓に。毎日日をおがみ |
| J18_0145B33: | て涙を流す入道ありけり。日に向ひて。疾して。われ |
| J18_0145B34: | を具して西へおはしませと願ひ侍りて。既に西の山 |