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J2660 無能和尚行業記 宝洲 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0142A01: 蟲あり。惣身は金色にて足長く。東へ西撥まはりて
J18_0142A02: 鳴く。其聲の面白事いふ斗なし。遙かに進み行ける
J18_0142A03: に。向ふに大なる樹あり。枝葉地際よりしげりあ
J18_0142A04: ひ。葉の色も一種にあらず。靑赤白金色等なり。枝
J18_0142A05: も色色にわかれたり。枝葉の間より光明四方に出て
J18_0142A06: 怕明ほどなり。梢ごとに珠の網懸れり。此樹の惣體
J18_0142A07: は杉形なり。樹上には見事なる鳥二三羽まひ遊べ
J18_0142A08: り。翅の色縹色に似て尾長く。四方へ亂れたり。こ
J18_0142A09: の鳥の高く囀る聲。聞くに心神も澄みわたり。面白
J18_0142A10: 事かぎりなし。扨其所を過て徐徐すすみ至りけれ
J18_0142A11: は。莊嚴微妙なる壇あり。其あたり惣て金色に光り
J18_0142A12: わたれり。結構にかざりたる高座あり。其上に茵の
J18_0142A13: 如くなる物を鋪て無能和尚安坐しあはせり。木蘭の
J18_0142A14: 直裰に薄墨の袈裟を着し。右の手に如意を執り給へ
J18_0142A15: り。面容の麗しき事。娑婆にて拜せしに倍して。す
J18_0142A16: ずろに隨喜渴仰の涙を催し。をのづから念佛しけ
J18_0142A17: り。側に位牌三基立たり。中なるは金色。左右の二
J18_0142B18: 基は。赤黄色なり。牌の前毎に金色の花足に供物を
J18_0142B19: 盛たり。色色の花二瓶。燭臺二基を備へたり。此燈
J18_0142B20: 明より又金色の光り出て。四方に照り耀く事。此世
J18_0142B21: には喩ふべき物なし。此位牌の前まで。如來に供し
J18_0142B22: 奉て來りけるが。某頭を低て位牌を拜せし内に。如
J18_0142B23: 來は牌の陰へかくれ給へり。地藏尊は無能和尚の背
J18_0142B24: 後へ入らせ給ふかとおもふ内に見失ひ奉りぬ。この
J18_0142B25: 時某は。無能和尚のおはします壇の右邊に座せしか
J18_0142B26: は。たちまち夢の覺る心地して。息を吹返し侍り
J18_0142B27: ぬ。親族ども集りて。既に死したりとて。歎き居け
J18_0142B28: るに。忽甦りければ。皆皆悅びあひぬる事。いふば
J18_0142B29: かりなし。翌廿四日なを病床にありけるに。先に見
J18_0142B30: え給へる彌陀如來常に枕許に立副て離れ給はず。高
J18_0142B31: 聲に念佛して側なる者にも知らせけれども。餘人
J18_0142B32: は一向に見奉らすといへり。漸漸快復するに隨て拜
J18_0142B33: み奉らず。加樣の希有の現益に預り候も。偏に師の
J18_0142B34: 御勸化に依て。念佛勤候故なりとて。歡喜踊躍し

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