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J2660 無能和尚行業記 宝洲 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0137A01: みわけて群參せる者。其數をしらず。諸人ことごとく
J18_0137A02: 結縁せんとて。われ先に棺に手を懸け。諍ひ競ふさ
J18_0137A03: ま。既に危く見へける故。隨身の者一同に立寄て棺
J18_0137A04: を奪ひ取り。いそぎ墳壙へ落し入けるに。棺と共に
J18_0137A05: 壙の内に飛び込し者。數多ありけり。かくばかり知
J18_0137A06: 識を慕ふ志。半座の盟り同生の縁。豈むなしからん
J18_0137A07: やとそ覺ゆ。來詣の人の中。葬所にて光明佛身等種
J18_0137A08: 種の瑞を感見せし輩もあり。具に記するに遑あら
J18_0137A09: ず。受化の緇白。師平生所用の念珠法衣を。一顆一
J18_0137A10: 片づづも分ち得て。神符を得るが如くに貴ひけり。
J18_0137A11: これ平日德澤の盛なるにあらずば。何そ其遺愛かく
J18_0137A12: の如くなるに及はんや
J18_0137A13: 一師の禪房の北にあたりて。大竹宇兵衞といふ者あ
J18_0137A14: り。正月二日師の往生し給へる由を聞て。驚き來り
J18_0137A15: て申けるは。某昨夜丑時の頃より。今朝明方まで。
J18_0137A16: 御庵室の方に當て。遙かに音樂の聲聞えし故。餘り
J18_0137A17: 不思議に存じ。愚妻を起して聞かせ候へば。妻はた
J18_0137B18: だ鶴の百羽ばかりも群居て唳くやうに聞え候由申
J18_0137B19: す。某が耳には初は人の大勢群集せる音の樣に聞
J18_0137B20: え。後には番匠の數多集て。釿うちなど致す樣に
J18_0137B21: て。其響き隱隱丁丁として。拍子の面白こと言語に
J18_0137B22: 及ひがたし。それよりして。鼓太鼓笛など。種種の
J18_0137B23: 樂器。ききもなれぬめずらしき音しけり。いと恠き
J18_0137B24: 事におもひ。猶も能聞き認めんと。外へ出て窺ひ候
J18_0137B25: へは。はや夜もやうやうしらしらと明わたり。音樂
J18_0137B26: の響も。やや幽かになり行て。遂に聞失ひ侍りきと
J18_0137B27: 語る。是まさしく師の往生の時刻に當れり。
J18_0137B28: 一師康存の日。曾て同行の緇素と。法話の次に。新
J18_0137B29: 關氏申しけるは。人人の臨終の時節。兼て計り難く
J18_0137B30: 候へとも。互に志を述て見候に。多くは。八月十五
J18_0137B31: 夜の頃。往生を遂け申度と望候。某なども。左樣に
J18_0137B32: 願ひ候由申けれは。師仰けるは。自分なとの願に
J18_0137B33: は。正月五箇日の内とおもふなり。其故は。元日よ
J18_0137B34: りは。皆人年始なりとて。祝儀にのみかかりて。無常

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