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J2660 無能和尚行業記 宝洲 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0136A01: 者にて。臨終目出たく。殊勝の往生を遂たりし人な
J18_0136A02:
J18_0136A03: 一同日申刻のころ師厭求を召て。來迎讃を獨吟に靜
J18_0136A04: かに唱ふべしと仰けれは。厭求かしこまりて。枕頭
J18_0136A05: に侍りて稱へけるに。師聞て合掌し。双眼に涙を浮
J18_0136A06: べ常に此讃をありがたく聽聲せしといへども。此
J18_0136A07: 度は殊に身に染て貴く覺へ候とて。信敬の氣色。外
J18_0136A08: に顯はれてぞ見え侍る。同日初夜過。重て厭求蓮心
J18_0136A09: 二人に命じて。十樂讃を唱へしめ。第五快樂無退樂ま
J18_0136A10: て聽聞せられき。同中夜勤行の上。師御手の糸。並
J18_0136A11: に三部經に付けたる紐を念珠に持添て。夫より一切
J18_0136A12: これを放れずして。頻りに念佛相續せられけり。
J18_0136A13: 師平日淨土の三經を殊に尊重せられし故。御手の糸になぞらへて。御經の糸をもひかへられけり。門人代る代る
J18_0136A14: 枕頭に侍り引磬を鳴して助念を致す。次第に氣息奄
J18_0136A15: 奄として。稱名の聲かすかになり行けども。唇舌は
J18_0136A16: 常に動き侍る。頭北面西の儘。體すこしも轉ぜず。
J18_0136A17: 面色咲を含て常よりも鮮かに。形容眠か如くにして
J18_0136B18: 息たえ給へり。時に春秋三十七。實に享保四年巳亥
J18_0136B19: 正月二日卯の中刻なり。命終の前半時ばかり大地震
J18_0136B20: 動すること三度。看侍の者大千感動の經文を思ひ出
J18_0136B21: て。師の往生の大願成就の瑞なるべしと貴びあひけ
J18_0136B22: り。嗟夫哲人去りて何くにか往ける。たた思ひを
J18_0136B23: 安養淨刹の夕の雲に馳す。慈訓とどまりて忘るる時
J18_0136B24: なし。空しく涙を閻浮草廬の曉の露に添ふ。法輪軸
J18_0136B25: を折き。慈航楫を摧く。萬人ここかしこにて。化を
J18_0136B26: 惜み泣き悲むありさま。鶴林中宵のむかし。思ひや
J18_0136B27: らるる斗なり。門人師の遺骸を沐浴せんと欲して
J18_0136B28: これを擧るに。其體はなはだ輕く。かつ柔輭なり。
J18_0136B29: 面色ますます麗しくして。祖師の眞影を見るが如
J18_0136B30: し。同三日の夜まで留め置奉りて。人人に拜ませけ
J18_0136B31: るに。皆ことことく。道德熏修の致す所と。隨喜感
J18_0136B32: 歎しけり。同四日午刻。門人遺命に任せ。則庵室の
J18_0136B33: 前庭に地を卜て土葬になし奉る。送葬の砌。年内よ
J18_0136B34: り降積りたる高雪なりしに。遠近の僧尼士女。雪ふ

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