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J2660 無能和尚行業記 宝洲 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0135A01: 授け畢りて申されけるは。年内に極りたる往生の。
J18_0135A02: 年明るまで相延しも。これ又如來の御方便にて。世
J18_0135A03: 上の騷しき折節なれば。しばし御延給はりしと思ふ
J18_0135A04: なり。年明候へは。定て間もなく往生するなるべし
J18_0135A05: とて。いよいよ勇猛に稱名相續せられき。
J18_0135A06: 一同日或人師の病床に問候しけり。師蓮心を召て仰
J18_0135A07: けるは。西方淨土の地を表せる紙に包たる菓子ある
J18_0135A08: べし。持來て。此人に饗ふべしと。時に蓮心曾て覺
J18_0135A09: えなかりしかは。かれこれ問ひ合せけれ共。本より誰
J18_0135A10: 誰も其覺えなしといへり。依て師に其由を申しけれ
J18_0135A11: は。師仰せけるは。此間三度まて食したる環餠な
J18_0135A12: り。霜柱のごとくにて透徹り。口に入るれば其儘泮
J18_0135A13: るやうにて風味はなはだ佳し。能能これを尋ぬべし
J18_0135A14: と。仰ける故。有合たる菓子ども。悉く取り出して
J18_0135A15: 見せ奉りしか共。いづれもこれにてはなしとて返し
J18_0135A16: 給ひぬ。よつて看侍の者。相共に申けるは。師の宣ふ
J18_0135A17: 所は。恐らくは此土の菓子にあらじ。定て淨土の百味
J18_0135B18: 飮食を。如來の此間御あたへましましける者と覺え
J18_0135B19: 候。然る故は。舊冬廿五日より。一向に御食事これ
J18_0135B20: なく候に。師の容體おとろへ給ふこともなく。殊更晝
J18_0135B21: 夜高聲に念佛相續し。常よりも勇猛に見えさせ給ふ
J18_0135B22: 事。皆皆不思議に存する也と申しけれは。師聞て左
J18_0135B23: 樣の事もあるべしとなん申されける。粤に師の沒後
J18_0135B24: に。信夫郡八町目常念寺良信和尚この事を聞て語ら
J18_0135B25: れしは。それに付て不思議の事侍り。われ此正月朔日
J18_0135B26: の夜夢みらく。或る山際に奇麗なる菴室あり。去年
J18_0135B27: 十一月に死去せし山本源八と申す仁と。無能和尚と
J18_0135B28: 一所におはして。何か物語し給ふやうなり。前に美
J18_0135B29: しき器物に菓子を入れ置き。兩人して度度めされ候
J18_0135B30: ひけるが。和尚にも進じたく候へども。貴邊のまい
J18_0135B31: るべきものにあらず。疾かへり給ひねと。申さるる
J18_0135B32: と思ひし内に夢覺めけり。只今存し合せ候へは。い
J18_0135B33: と不思議の夢にて侍る由申されける。此山本氏とい
J18_0135B34: いるは。存生の間師の勸化により。日課八萬聲の行

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