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J2660 無能和尚行業記 宝洲 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0134A01: し。いづれも終焉の砌には。かならず如來に供し奉
J18_0134A02: りて。來り迎ふべしなど。面面にわかれを告らるる
J18_0134A03: 事慇懃なり。同日福島より。門人愚信馳參りけり師す
J18_0134A04: なはち。十念を授けわかれを述べ畢りて申さるるや
J18_0134A05: う。愚信われに髮を剃てくるべし。往生極樂の首途
J18_0134A06: せんと思ふなりと。看病の者ども。いと氣の毒なる
J18_0134A07: 事に思ひをれども。強に望み給ひし故。是非なく愚
J18_0134A08: 信そりて奉りぬ。廿五六日の頃よりは。手面を洗
J18_0134A09: ひ。口を漱がるる事。晝夜に數度なり。又便利の穢
J18_0134A10: あることなし。知死期の度ごとに。ことさら念佛を勤
J18_0134A11: められ。御手の糸を執りて。如來尊號甚分明。十方
J18_0134A12: 世界普流行。但有稱名皆得往。觀音勢至自〓迎五會讃
J18_0134A13: の文を唱へ。念佛の終には。願くは阿彌陀佛本願あ
J18_0134A14: やまちなく臨終の時にはかならず。わが前に現じ給
J18_0134A15: ひ。慈悲を以て加へ祐て。正念に住せしめ給へと。
J18_0134A16: 稱へ畢りて十念相續し。すなはち御手の糸を上られ
J18_0134A17: 侍りき。又師看病の者に對して。折折申されしは。
J18_0134B18: われ遁世の最初は。死縁無量なれは。道のほとり野
J18_0134B19: 邊の間にて。ひとり死する事もあるべしと兼て覺悟
J18_0134B20: せしに。思ひの外に。かく淸閑なる庵室にて。道塲
J18_0134B21: の莊嚴。臨終の行儀まで。心の儘に調へ隨侍の者あ
J18_0134B22: また親切にいたはり給ひて目出たく終りを取る事。
J18_0134B23: ありがたき仕合なり。これしかしながら如來の御慈
J18_0134B24: 悲。をのをのの懇志ゆへと。宿縁の程も。思ひやら
J18_0134B25: れて。嬉しく辱き由。諄諄禮謝し給ひけり。
J18_0134B26: 一同晦日の夜。小島村より。吉田氏酒井氏二人馳來
J18_0134B27: り。われら途中に於て。師の禪室の上に當りて。大
J18_0134B28: 挑燈の如くなる物虚空より降り。中に止りて其内よ
J18_0134B29: り。幾筋共なく光明出て四方へ散り輝くを見侍りし
J18_0134B30: 由申す
J18_0134B31: 一年も既に暮行て。明れは正月元日なり。師命期は
J18_0134B32: なはだ近しといへとも。病苦更になかりけれは。樣
J18_0134B33: 體はたた平常の如く快くおはしけり。檀越野村氏な
J18_0134B34: と一兩輩。元旦の禮式ながら拜謁しけり。師十念を

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