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J2640 厭求上人行状記 祐山 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0073A01: 當山開闢以來終に未だ一人の此地に説法するを聞
J18_0073A02: ず。諸天嶺に遊び山神谷を護る。立どころに賞罰あ
J18_0073A03: りて恐怖萬端なり。師は是何人にしてかほしひまま
J18_0073A04: に此に説法するやと。師答ていはく汝わづかに彌勒
J18_0073A05: 當來の成道のみを知りて未だ今日の化導ある事を知
J18_0073A06: らず。薩埵の化導何ぞ當來のみをまたん。大悲の方
J18_0073A07: 便無方難思なり。唯衆生をして生死を解脱せしめば
J18_0073A08: 即今の説法則ち彌勒當來の化導なり。維摩經に所謂
J18_0073A09: 彌勒如與衆生如一如無二如汝迷執を改て宜しく
J18_0073A10: 念佛すべしと。山伏問て云く師は是彌勒か何人ぞ
J18_0073A11: と。師答て云く我即ち彌勒なりと。山伏愕然として
J18_0073A12: 師を拜して去る。諸人更に此山伏を知らず又その往
J18_0073A13: 所を知らず。嗚呼奇なるかな。時に諸人信心髓に徹
J18_0073A14: し晝夜稱名の聲谷に響き山に應ふ。其翌日又爰に説
J18_0073A15: 法す。其後師湯殿山の寶前に詣でで法施を献りて山
J18_0073A16: を下る。夫より奧州仙臺に遊び有縁を敎化して洛に
J18_0073A17: 歸る。今熟案ずるに彼一人の山伏は世にいふ所の天
J18_0073B18: 狗なるべし若大悟の人にあらずんば我即ち彌勒也の即答は出ましきなり
J18_0073B19: ○師又一時請に應じて藝州嚴島の光明院にいたる是
J18_0073B20: 以八上人の舊跡明神護法の靈塲なり師兼て以八上人
J18_0073B21: の高德をしたはるるが故に此請に應ぜらるる所也。
J18_0073B22: 時に此寺住持なし。然れども諸檀家の輩。兼て師の誓
J18_0073B23: ふて寺院を領ぜざることを知りける故にこれを請ぜ
J18_0073B24: ず唯時時爰に遊化し玉はんことを願ふのみ。師即ち爲
J18_0073B25: に説法す。一島の諸人歸敬尊重し仰ひで本師とす。
J18_0073B26: 廣島の貴賤海を隔て德を仰ぎ。隣國の男女船を浮べ
J18_0073B27: て來詣し。往來の旅客歸路を忘れて法味を聽受す。
J18_0073B28: 師初め光明院の請に應ずるの日。自からおもへらく
J18_0073B29: 今已むことを得ずして宮島に行。彼に至りて一兩夏を
J18_0073B30: 經ば必ず歸り來るべしと。既に彼島に至るに及び
J18_0073B31: て。明神の宮殿海に接し。廊腰緩く廻り滿潮の時は
J18_0073B32: 廊下瀾湛へてさながら龍宮城に似たり。寶塔山に聳
J18_0073B33: へ華表。浪に浮び。その風景絶勝實に神仙の靈境た
J18_0073B34: るに感じて初念に違背し覺えず七年を經たり。その

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