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J2640 厭求上人行状記 祐山 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0059A01: 爰に住持せしめんことを欲す。衆人と共に懇請して云
J18_0059A02: く此地は四方より浴客の來會する處。放逸無慚貪欲
J18_0059A03: 熾盛にして尤難化の衆生なり。唯五欲に耽著して後
J18_0059A04: 世を思はず他力を信ぜず因て念佛未だ弘通せず。師
J18_0059A05: にあらずんば誰か是を度すべきや伏して乞ふ大悲を
J18_0059A06: 垂て此寺に住し群迷を救濟し給へと。師堅く辭す。
J18_0059A07: 其請再三に及ぶ。師告て云く予が固辭する事別に子
J18_0059A08: 細あり。予一生涯水雲のごとく住處を定むべからざ
J18_0059A09: るの誓ひを立たり又再びいふべからずと。爰におい
J18_0059A10: て寺主等いかんともすることあたはず甚だ是を憂へ師
J18_0059A11: の老母に就て方便慰諭して是を請ずることやまず。母
J18_0059A12: 公元より身に痼疾あり常に溫泉に浴せんことを思ふ。
J18_0059A13: 幸に此事を悅び師に語りて云く我さて命期も程あら
J18_0059A14: じ身恒に病あり溫泉に浴する時は快し。師此寺に住
J18_0059A15: せば我又常に浴して餘年を保つことを得ん願はくは我
J18_0059A16: 爲に強て衆請に應じ給へと。師玆におゐて默然とし
J18_0059A17: て思惟すらく。自の誓ひは輕し老母の命は至りて重
J18_0059B18: し。我既に出家する故に孝道を行ふことあたはずと
J18_0059B19: も。なんすれぞ此命にそむくべきやと。即ち請に應
J18_0059B20: じて住持する事九年。寺内修補する所多し師を以て
J18_0059B21: 中興とす。師六時に勤行す是より永く寺法と成る。
J18_0059B22: 寺主たりといへども常に香衣を用ひず故ありて著用
J18_0059B23: する事兩三度。その謙讓なること知んぬべし。平日勸
J18_0059B24: 誘を以て作業とす。而しより以來本願に歸して念佛
J18_0059B25: するもの甚だ多し往生の素懷を遂るもの數を知ら
J18_0059B26: ず。老母別室に住して恒に歡喜念佛す多歳安然た
J18_0059B27: り。一日少惱あり本尊に向ひて合掌念佛すること數聲
J18_0059B28: 寂然として逝す法譽性遠法尼と號す寬文七年二月十
J18_0059B29: 日なり。爰におゐて師自から惟へらく我既に老母の
J18_0059B30: 命を全し畢れり速に退院すべしと。此旨を衆人に告
J18_0059B31: ぐ衆人堅く留めて許さず。師夜に紛れて寺を捨遁れ
J18_0059B32: 去る。諸人是を聞て考妣を喪するが如し。諸檀家集
J18_0059B33: り議して師の弟子をして席を繼しむ善阿了阿相續て
J18_0059B34: 住持し師の門風遠く仰ぎ化益倍盛なり

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