浄土宗全書を検索する
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巻_頁段行 | 本文 |
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J18_0059A01: | 爰に住持せしめんことを欲す。衆人と共に懇請して云 |
J18_0059A02: | く此地は四方より浴客の來會する處。放逸無慚貪欲 |
J18_0059A03: | 熾盛にして尤難化の衆生なり。唯五欲に耽著して後 |
J18_0059A04: | 世を思はず他力を信ぜず因て念佛未だ弘通せず。師 |
J18_0059A05: | にあらずんば誰か是を度すべきや伏して乞ふ大悲を |
J18_0059A06: | 垂て此寺に住し群迷を救濟し給へと。師堅く辭す。 |
J18_0059A07: | 其請再三に及ぶ。師告て云く予が固辭する事別に子 |
J18_0059A08: | 細あり。予一生涯水雲のごとく住處を定むべからざ |
J18_0059A09: | るの誓ひを立たり又再びいふべからずと。爰におい |
J18_0059A10: | て寺主等いかんともすることあたはず甚だ是を憂へ師 |
J18_0059A11: | の老母に就て方便慰諭して是を請ずることやまず。母 |
J18_0059A12: | 公元より身に痼疾あり常に溫泉に浴せんことを思ふ。 |
J18_0059A13: | 幸に此事を悅び師に語りて云く我さて命期も程あら |
J18_0059A14: | じ身恒に病あり溫泉に浴する時は快し。師此寺に住 |
J18_0059A15: | せば我又常に浴して餘年を保つことを得ん願はくは我 |
J18_0059A16: | 爲に強て衆請に應じ給へと。師玆におゐて默然とし |
J18_0059A17: | て思惟すらく。自の誓ひは輕し老母の命は至りて重 |
J18_0059B18: | し。我既に出家する故に孝道を行ふことあたはずと |
J18_0059B19: | も。なんすれぞ此命にそむくべきやと。即ち請に應 |
J18_0059B20: | じて住持する事九年。寺内修補する所多し師を以て |
J18_0059B21: | 中興とす。師六時に勤行す是より永く寺法と成る。 |
J18_0059B22: | 寺主たりといへども常に香衣を用ひず故ありて著用 |
J18_0059B23: | する事兩三度。その謙讓なること知んぬべし。平日勸 |
J18_0059B24: | 誘を以て作業とす。而しより以來本願に歸して念佛 |
J18_0059B25: | するもの甚だ多し往生の素懷を遂るもの數を知ら |
J18_0059B26: | ず。老母別室に住して恒に歡喜念佛す多歳安然た |
J18_0059B27: | り。一日少惱あり本尊に向ひて合掌念佛すること數聲 |
J18_0059B28: | 寂然として逝す法譽性遠法尼と號す寬文七年二月十 |
J18_0059B29: | 日なり。爰におゐて師自から惟へらく我既に老母の |
J18_0059B30: | 命を全し畢れり速に退院すべしと。此旨を衆人に告 |
J18_0059B31: | ぐ衆人堅く留めて許さず。師夜に紛れて寺を捨遁れ |
J18_0059B32: | 去る。諸人是を聞て考妣を喪するが如し。諸檀家集 |
J18_0059B33: | り議して師の弟子をして席を繼しむ善阿了阿相續て |
J18_0059B34: | 住持し師の門風遠く仰ぎ化益倍盛なり |