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J2640 厭求上人行状記 祐山 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0056A01: に大灸を以てす艾草百目を束ねて一壯とすその大さ
J18_0056A02: 拳の如し。是を脊の上に置て火を點ず師怡然として
J18_0056A03: 是を受て堪忍し面色變ぜず小苦なきに似たり。諸人
J18_0056A04: 怪みて灸火の盡るを待てその苦熱を問ふ。師答へて
J18_0056A05: 云く小苦あることなしと。諸人驚き見るに都て灸の跡
J18_0056A06: なし但懷中なる守袋より煙の出るあり守袋の内外燒
J18_0056A07: 拔たり。即ち是此守袋の佛代りて苦を受るのみ吁奇
J18_0056A08: なる哉。此守は法印何某の加持する所なり。師の母
J18_0056A09: 歡喜して此由を彼法印に語る。法印の云く我曾て守
J18_0056A10: 護を施與すること許若千人なりき終にいまだ師の如き
J18_0056A11: 代受苦の事ある事を聞ず是はこれ他にあらず師の信
J18_0056A12: 力強盛の感應なりと。その幼齡にして但信徹骨なる
J18_0056A13: 事是の如し。他日他力本願を仰信する事も又是の如
J18_0056A14: くなるべき旨ここにあらはれたり。栴檀は二葉より
J18_0056A15: 香しといふは實に虚語にあらず
J18_0056A16: ○師歳漸く長じて十七なりしかば。宗の式法に任せ
J18_0056A17: て修學の爲武州江戸に下り靈巖寺の珂山和尚に隨
J18_0056B18: ふ。和尚一見器許し一宗の秘賾宗戒布薩これを傳へ
J18_0056B19: て餘蘊なし。師自から淨敎を研究して晝夜をわかた
J18_0056B20: ず又兼て諸經論を探りて其幽致を究む。惠解天然に
J18_0056B21: して錐囊を脱するが如し是を講ずる時は辨懸河のご
J18_0056B22: とく人心を感動せしむ。既にして飯沼弘經寺に行き
J18_0056B23: 宗閑和尚に就て修學す其後又靈巖寺に歸る
J18_0056B24: ○明曆二年丁酉正月十八十九兩日江戸大火にて城中
J18_0056B25: 并に城外諸侯の亭館商家民屋一時に煨燼す。逃遁る
J18_0056B26: る道なふして燒死する者數萬人に及ぶ靈巖寺も又火
J18_0056B27: 裡にあり。師走り出て河邊に至る橋既に燒落て又船
J18_0056B28: 筏なし惘然として佇立せり。忽ち男女數輩小船に棹
J18_0056B29: して河岸に寄來る。師喜びてこれに乘り漸く火災を
J18_0056B30: 脱れて既に中流にいたる。更閑夜深て竿を折き橈を
J18_0056B31: 絶つ。水深して底なくいかんともすべきやうなし。運
J18_0056B32: に任せて遙に海上に出づ暴風船を簸て波濤山の如し
J18_0056B33: 忽ち水底に沈沒せんとす。時に何くともなく船一艘
J18_0056B34: 衝來りて行違ふ。其間相去ること一丈ばかりなり師即

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