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J2640 厭求上人行状記 祐山 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J18_0055A01: 厭求上人行狀記
J18_0055A02:
J18_0055A03: 師諱は貞憶後に厭求と改む。眞蓮社廣譽心阿は本宗
J18_0055A04: 恒式の別號なり。俗姓は村上源氏。平安城の人な
J18_0055A05: り。寬永十年癸酉二月四日に誕生す。幼稚なりし時
J18_0055A06: 伯父武藤氏に就て射を學ぶ。伯父篤信にして時時一
J18_0055A07: 僧を宅に請じて供養し身を屈して給仕すること君父に
J18_0055A08: 事るが如くす。師或日彼僧の草庵に行て見るに獨住
J18_0055A09: 單丁の野僧なり。師ひそかに思へらく伯父は是衆人
J18_0055A10: の長にして從者數輩あり。然るに身を謙りて獨庵の
J18_0055A11: 僧を恭敬すること奴婢の主人に事るが如くす。佛法の
J18_0055A12: 威力妙なるかな奇なるかな言語の及ぶ所にあらずわ
J18_0055A13: れ誓ふて必ず出家すべし仕官の榮を期すべからず
J18_0055A14: と。是より後毎夜夢中に一僧來り告て云く。出家修
J18_0055A15: 道は一大事因縁なり小縁の事にあらずたとひ燒火僧
J18_0055A16: も一千戸の官人に勝れり汝早く出家すべしと。故を
J18_0055A17: 以て師父母に告て素懷をとげん事を乞ふ。父母堅く
J18_0055B18: 許さず。已ことを得ずして師自から髻を截て切に入道
J18_0055B19: を願求す。父大ひに瞋りて一室に籠居させ永く外出
J18_0055B20: を禁ず。其後幾ならざるに父卒去しぬ。師歎息して
J18_0055B21: 云く我家に在て父に仕へて孝を行ふことあたはず。既
J18_0055B22: に孝道を欠。又出家して父の後世を吊ふことを得ず現
J18_0055B23: 當の大事兩ながら失却すいかがせんいかがせんとて哭泣悶
J18_0055B24: 絶す。母見て驚歎して云く。異しひかな吁汝は我子
J18_0055B25: にあらじ幼年にしてよく是の如きの善語を吐出せり
J18_0055B26: 我何んぞ汝が出家を障んや。然共今年は期の喪一周忌ま
J18_0055B27: でを期の喪と云を守りて宜しく老父の命に隨ふべし明年にい
J18_0055B28: たらば我汝が素意を遂るに任すと。爰におゐて師欣
J18_0055B29: 然たり光陰程なく遷り往て期の喪既に畢りぬ。正保
J18_0055B30: 二年乙酉五月二日歳十三にして洛の專念寺信譽上人
J18_0055B31: に投じて剃染受戒す。信譽則ち淨土三部妙典六時禮
J18_0055B32: 懺を授けて讀誦せしむ數月ならずして暗誦し更に一
J18_0055B33: 字を失せずその聰明絶倫なること是の如し見聞の者歎
J18_0055B34: じて異人とす。師偶一日過あり信譽是を咎めて責る

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