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J2620 以八上人行状記 素信 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J17_0772A01: ぬ。天正十年直家もまた逝す。其嗣子秀家もつみあ
J17_0772A02: りて流刑に處せらる。因果報應の跡昭然たり。しか
J17_0772A03: れども誕生寺は終に異流にしづむこと年久し。依て
J17_0772A04: 諸檀信再興のこころざしを發すといへども住持いま
J17_0772A05: だ本宗に復することあたはず。ときに師。いつくし
J17_0772A06: まにあり。祖跡をしたひきたり見たまふに其廢亡目
J17_0772A07: もあてられぬありさまなり。師ふかくこれをいた
J17_0772A08: み。いかにもして再興せんと。心肝をくだくこと言
J17_0772A09: 語にたへたり。よつて住持に。祖跡の由來をかたり
J17_0772A10: なげき。しきりに勸誘せられけるに。住持のいはく。
J17_0772A11: 予もまたそのこころざしなきにあらずといへども。
J17_0772A12: 事をはかるべきちからなしと。師悅びていはく。そ
J17_0772A13: の資料は我寄捨せんと。急ぎいつくしまにかへり弟
J17_0772A14: 子雲譽をつかはし住持とともに洛の本山智恩院にゆ
J17_0772A15: きてくだんのむねをうつとふ。時に知恩院主誠譽大
J17_0772A16: 和尚すみやかに領掌ありて。雲譽ならびに誕生寺住
J17_0772A17: 持を率ひて禁闕にのぼり以聞せらる。
J17_0772B18: 龍顏感ありて不日に綸命をくだしたまはり本に復し
J17_0772B19: ぬ深譽おほひによろこびて本州にかへり再營を縡と
J17_0772B20: す。今般誕生寺再興の事ひとへに師の丹誠によるも
J17_0772B21: のなり。その功禹の下にあらずといふべし。
J17_0772B22: ○大凡そ當今末法五濁惡世にて。出離生死の要行は
J17_0772B23: 本願ねんぶつの法門のみ。ときにいたり機にかなふ
J17_0772B24: がゆへに師の平素自行化他一向專修の勤行にて餘課
J17_0772B25: をとどめたまはざりき。道俗男女たまたま禮謁をと
J17_0772B26: ぐるものも法澤にうるほはずといふことなし。當時
J17_0772B27: 藝防等の諸州淨業ねんぶつの流行するはみなこれ師
J17_0772B28: の德光なり。師いつくしまにありてあまねく化やく
J17_0772B29: をほどこさるることおよそ三十年の星霜を經たり。
J17_0772B30: ○慶長十九甲寅年なつのころややなやみたまふこと
J17_0772B31: あり。仲秋にいたりて不食の所勞增氣したまへり。
J17_0772B32: 病床にふしたまふといへども日課稱名すこしもおこ
J17_0772B33: たりなく道俗男女きたり訪ふともがらに對して法要
J17_0772B34: をときしめさるる事もまた尋常のごとし。終に九月

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