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J2620 以八上人行状記 素信 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J17_0767A01: て打すてば自理を失ふべく候。其用心肝要に候。さ
J17_0767A02: れば古人も悟道は易く修行はかたしといへり。又は
J17_0767A03: 大事をあきらめても父母を一度に殺してある心もち
J17_0767A04: にて工夫せよといへり。尤ありがだき事どもなり。
J17_0767A05: 此樣なるこそは眞實の佛法にて候へ。今どきの佛法
J17_0767A06: のあつかひは一向外道の法にて候。よくよく經論を
J17_0767A07: 見はけ能能身に當こころにひき受て思案候はば佛祖
J17_0767A08: の内證にかなふべく候と云云
J17_0767A09: ○師北越遊行のおりから。ゆきくれて道のかたはら
J17_0767A10: なる塚間の草堂にいりて宿したまふ。つらつらおも
J17_0767A11: へらくいま此やどりを得たるこそ幸なれ。幻身を石
J17_0767A12: 火光中によせ。餘命を井藤綆上に保つ。新舊の墳墓
J17_0767A13: 證據ここにありとつかれをわすれて稱名す。聲音澄
J17_0767A14: わたりて林野寂寞たり。ときに夜まさに二更ならん
J17_0767A15: とするころ。僧一人俗四五輩。死屍を舁來り誦經な
J17_0767A16: どして火葬しさりぬ。師慘然としておもへらく。浮
J17_0767A17: 世のありさま皆もつて是のごとし誰か無常の身にあ
J17_0767B18: らざらんやはと。いよいよ聲を勵して念佛したま
J17_0767B19: ふ。しばらくありてかの死屍一堆の火と化し竟れ
J17_0767B20: り。ときにひとり女人たちまち火中より出て四方を
J17_0767B21: 顧みはしりて。茶碗にある手向の水を飮。又元のと
J17_0767B22: ころにいたり。大に叫びていはく。苦しい哉悔しき
J17_0767B23: かな。つとむべき善根は營ずして。なすべからざる
J17_0767B24: 惡業をのみつくれり。今若る苦を受ることよといひ
J17_0767B25: 畢りて再び火中にいりぬ。其聲はなはだいたまし。
J17_0767B26: 師まのあたり是を見て憐愍のおもひに絶ず。曉にお
J17_0767B27: よびて火坑にいたりて見たまへば灰骨ともに墨のご
J17_0767B28: とし。漸くあたり近き里に出。とある家に入て問給
J17_0767B29: ふは此ところに新死の人や有と。家主答ていはく昨
J17_0767B30: 日此東家の婦女死しぬ。ゆふべ初夜の比某野に送れ
J17_0767B31: りと。又問ていはく其人生前にいかなる生質にてあ
J17_0767B32: りけるやと。答て曰婚禮の始より唯嫉妬偏執貪欲瞋
J17_0767B33: 恚のおそろしきことをのみ見聞侍りぬと。師聞てお
J17_0767B34: もへらく善惡因果の道理は苟且にも誣べからずと。

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