浄土宗全書を検索する
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巻_頁段行 | 本文 |
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J17_0767A01: | て打すてば自理を失ふべく候。其用心肝要に候。さ |
J17_0767A02: | れば古人も悟道は易く修行はかたしといへり。又は |
J17_0767A03: | 大事をあきらめても父母を一度に殺してある心もち |
J17_0767A04: | にて工夫せよといへり。尤ありがだき事どもなり。 |
J17_0767A05: | 此樣なるこそは眞實の佛法にて候へ。今どきの佛法 |
J17_0767A06: | のあつかひは一向外道の法にて候。よくよく經論を |
J17_0767A07: | 見はけ能能身に當こころにひき受て思案候はば佛祖 |
J17_0767A08: | の内證にかなふべく候と云云。 |
J17_0767A09: | ○師北越遊行のおりから。ゆきくれて道のかたはら |
J17_0767A10: | なる塚間の草堂にいりて宿したまふ。つらつらおも |
J17_0767A11: | へらくいま此やどりを得たるこそ幸なれ。幻身を石 |
J17_0767A12: | 火光中によせ。餘命を井藤綆上に保つ。新舊の墳墓 |
J17_0767A13: | 證據ここにありとつかれをわすれて稱名す。聲音澄 |
J17_0767A14: | わたりて林野寂寞たり。ときに夜まさに二更ならん |
J17_0767A15: | とするころ。僧一人俗四五輩。死屍を舁來り誦經な |
J17_0767A16: | どして火葬しさりぬ。師慘然としておもへらく。浮 |
J17_0767A17: | 世のありさま皆もつて是のごとし誰か無常の身にあ |
J17_0767B18: | らざらんやはと。いよいよ聲を勵して念佛したま |
J17_0767B19: | ふ。しばらくありてかの死屍一堆の火と化し竟れ |
J17_0767B20: | り。ときにひとり女人たちまち火中より出て四方を |
J17_0767B21: | 顧みはしりて。茶碗にある手向の水を飮。又元のと |
J17_0767B22: | ころにいたり。大に叫びていはく。苦しい哉悔しき |
J17_0767B23: | かな。つとむべき善根は營ずして。なすべからざる |
J17_0767B24: | 惡業をのみつくれり。今若る苦を受ることよといひ |
J17_0767B25: | 畢りて再び火中にいりぬ。其聲はなはだいたまし。 |
J17_0767B26: | 師まのあたり是を見て憐愍のおもひに絶ず。曉にお |
J17_0767B27: | よびて火坑にいたりて見たまへば灰骨ともに墨のご |
J17_0767B28: | とし。漸くあたり近き里に出。とある家に入て問給 |
J17_0767B29: | ふは此ところに新死の人や有と。家主答ていはく昨 |
J17_0767B30: | 日此東家の婦女死しぬ。ゆふべ初夜の比某野に送れ |
J17_0767B31: | りと。又問ていはく其人生前にいかなる生質にてあ |
J17_0767B32: | りけるやと。答て曰婚禮の始より唯嫉妬偏執貪欲瞋 |
J17_0767B33: | 恚のおそろしきことをのみ見聞侍りぬと。師聞てお |
J17_0767B34: | もへらく善惡因果の道理は苟且にも誣べからずと。 |