浄土宗全書を検索する
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巻_頁段行 | 本文 |
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J17_0768A01: | 終夜見しありさまをつぶさにかたり聞へければ。人 |
J17_0768A02: | 人おどろきかなしみ皆皆念佛のしめしをぞ受侍る。 |
J17_0768A03: | ○師またあるとき備後にいたらんと欲して山路にさ |
J17_0768A04: | しかかりたまひしに日もはや西山にかくれ陰雲天に |
J17_0768A05: | おほひしかば。樹下石上は素より沙門の憩息すると |
J17_0768A06: | ころなれども。今宵の風雨をいかが凌なんと。道行 |
J17_0768A07: | ふりに山のあいだを見わたしたまへば。一つの茅屋 |
J17_0768A08: | あり。立寄てやどりを乞ひ給ふに。あるじ左右なく |
J17_0768A09: | ゆるしぬ。時に其男泣泣かたるやう。今日は不幸に |
J17_0768A10: | して年比の妻におくれ侍りぬ。たのみ寺の僧を請し |
J17_0768A11: | てのべの送りをとげ侍らんとおもふに。其寺はるか |
J17_0768A12: | に此山のうしろにあり。やつがれ今行て僧を請じ來 |
J17_0768A13: | らん。其間。師ねがはくは。死婦をまもりたびてん |
J17_0768A14: | やといへば。師こたへていといとやすき事なり。我 |
J17_0768A15: | よくこれを守りなん。とく往て僧を請じ來れよとこ |
J17_0768A16: | たへたまひけるに男よろこびて出ぬ。師亡婦をあは |
J17_0768A17: | れみ。しきりにねんぶつして冥福に擬せられける。 |
J17_0768B18: | しばらくありていづちともなく壹人の僧いり來れ |
J17_0768B19: | り。師のおはしますをもかへり見ることなく。ただち |
J17_0768B20: | に死婦がかばねに就き。手をもちて衣をはぎとり。 |
J17_0768B21: | 紅舌を出して遍身をねぶり。莞爾として出さりぬ。 |
J17_0768B22: | 師これをみて大におどろき遍身汗流る。つらつら察 |
J17_0768B23: | するにもし是迎に往し所のたのみ寺の住僧ならん |
J17_0768B24: | か。淺間しき有所得の念頭先ばしり來りて若る擧動 |
J17_0768B25: | を成にやあらんと。ますます至心に念佛せらる。時 |
J17_0768B26: | に夜半過る比。主のおとこ賴寺の僧を伴ひ歸れり。 |
J17_0768B27: | 師これを見玉へば案にたかはず宵に來れる僧なり |
J17_0768B28: | き。よつて慨歎にたへず。其夜は其僧並に主の男と |
J17_0768B29: | ともに死骸をとりおさめけり。師は夜明ぬれば其家 |
J17_0768B30: | を辭して出。彼寺に尋ねゆき。彼僧にあふて問てい |
J17_0768B31: | はく。院主昨夜何ことをかこころに思ひ給へるやと。 |
J17_0768B32: | 僧さりげなき顏にて。さらにおもひ事なき由をいら |
J17_0768B33: | へぬ。師かさねていへらく。さのみなかくしたまひ |
J17_0768B34: | そ。心に思ひし事あらば明らかに語り給へ。予ひそ |