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J2620 以八上人行状記 素信 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J17_0768A01: 終夜見しありさまをつぶさにかたり聞へければ。人
J17_0768A02: 人おどろきかなしみ皆皆念佛のしめしをぞ受侍る。
J17_0768A03: ○師またあるとき備後にいたらんと欲して山路にさ
J17_0768A04: しかかりたまひしに日もはや西山にかくれ陰雲天に
J17_0768A05: おほひしかば。樹下石上は素より沙門の憩息すると
J17_0768A06: ころなれども。今宵の風雨をいかが凌なんと。道行
J17_0768A07: ふりに山のあいだを見わたしたまへば。一つの茅屋
J17_0768A08: あり。立寄てやどりを乞ひ給ふに。あるじ左右なく
J17_0768A09: ゆるしぬ。時に其男泣泣かたるやう。今日は不幸に
J17_0768A10: して年比の妻におくれ侍りぬ。たのみ寺の僧を請し
J17_0768A11: てのべの送りをとげ侍らんとおもふに。其寺はるか
J17_0768A12: に此山のうしろにあり。やつがれ今行て僧を請じ來
J17_0768A13: らん。其間。師ねがはくは。死婦をまもりたびてん
J17_0768A14: やといへば。師こたへていといとやすき事なり。我
J17_0768A15: よくこれを守りなん。とく往て僧を請じ來れよとこ
J17_0768A16: たへたまひけるに男よろこびて出ぬ。師亡婦をあは
J17_0768A17: れみ。しきりにねんぶつして冥福に擬せられける。
J17_0768B18: しばらくありていづちともなく壹人の僧いり來れ
J17_0768B19: り。師のおはしますをもかへり見ることなく。ただち
J17_0768B20: に死婦がかばねに就き。手をもちて衣をはぎとり。
J17_0768B21: 紅舌を出して遍身をねぶり。莞爾として出さりぬ。
J17_0768B22: 師これをみて大におどろき遍身汗流る。つらつら察
J17_0768B23: するにもし是迎に往し所のたのみ寺の住僧ならん
J17_0768B24: か。淺間しき有所得の念頭先ばしり來りて若る擧動
J17_0768B25: を成にやあらんと。ますます至心に念佛せらる。時
J17_0768B26: に夜半過る比。主のおとこ賴寺の僧を伴ひ歸れり。
J17_0768B27: 師これを見玉へば案にたかはず宵に來れる僧なり
J17_0768B28: き。よつて慨歎にたへず。其夜は其僧並に主の男と
J17_0768B29: ともに死骸をとりおさめけり。師は夜明ぬれば其家
J17_0768B30: を辭して出。彼寺に尋ねゆき。彼僧にあふて問てい
J17_0768B31: はく。院主昨夜何ことをかこころに思ひ給へるやと。
J17_0768B32: 僧さりげなき顏にて。さらにおもひ事なき由をいら
J17_0768B33: へぬ。師かさねていへらく。さのみなかくしたまひ
J17_0768B34: そ。心に思ひし事あらば明らかに語り給へ。予ひそ

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