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J2580 袋中上人伝 〓 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J17_0733A01:
J17_0733A02: 此心光庵はもとより人家をへたてて俗塵の氣たへ幽
J17_0733A03: 深寂寞の地なれは老邁の道容よするにいとよしとて
J17_0733A04: 十三年の間住居し給へり庵の巽の方に杉木二本あり
J17_0733A05: しに有夜杉の曉にあやしき聲しけれは上人おぼつか
J17_0733A06: なくおぼして扇をひらき空にむかひて誰人かあると
J17_0733A07: 問はせ給へば空中より是は愛宕山より鷲峰山海住山
J17_0733A08: に飛行するものなり此社の邊に大德の僧いますよし
J17_0733A09: うけたまはりしゆへに結縁のためにしばしここにと
J17_0733A10: まりい候とこたへければ上人合掌してねんごろに十
J17_0733A11: 念を授けられけるにありかたき法施の力にて久しき
J17_0733A12: 重苦を免かれ候其恩謝のためにといひておそろしき
J17_0733A13: 形を現して天狗の術通をなしてみせけるよし上人の
J17_0733A14: 末弟意俊といふ僧ものかたりし侍る。
J17_0733A15:
J17_0733A16: 上人暮ごとに施餓鬼を修し神呪をとなへ加持しおは
J17_0733A17: りて其施食を手より地に落し給ふに中間にて彼食い
J17_0733B18: づくともなくみなうせてあとなかりき實に群鬼の集
J17_0733B19: り居てあらそひ受し故ならんと人人不思議の思をな
J17_0733B20: しぬ。
J17_0733B21:
J17_0733B22: 有時恆例の施食おはりて後上人人もなき庭上にうち
J17_0733B23: 向て汝はいまになほ迷て來しや哀れなるかな得脱す
J17_0733B24: ることの何そおそきやと仰られしこれは惡趣受苦のも
J17_0733B25: ののいくたびも現前して上人の眼にかかりしゆへな
J17_0733B26: らん。
J17_0733B27:
J17_0733B28: 寬永三年の春彼岸の中日にあたりて天神の社の邊へ
J17_0733B29: 郡内の男女群集せり上人六字の名號に面面の法名を
J17_0733B30: かき加へ參詣の男女に一鋪つつ手づから授け鳥居の
J17_0733B31: 下石段の上に立て十念を授け給ひてこまやかに厭欣
J17_0733B32: の道理を勸策しくわしく稱名の功德を演説し給ふ聽
J17_0733B33: 聞の人みなみな渴仰し信伏せすといふことなかりきさ
J17_0733B34: れば其名號をば瓶原名號とて今に至まで人人珍敬し

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