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J2540 弾誓上人絵詞伝 宅亮 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J17_0687A01: と皮とばかりにて口より火焰を吹出せるさま恐るべ
J17_0687A02: し。上人則ち敎化して至心に念佛し回向し給へは。
J17_0687A03: たちまち消て跡方なし。其後永く妖怪は絶にけり。
J17_0687A04: ○それよりして花洛に登り。五條の橋の上にて彼方
J17_0687A05: 此方をながめやり給ふに。北にあたりて紫雲たなび
J17_0687A06: きほのかに佛影あらはれぬ。さては靈地なりけりと
J17_0687A07: おぼしてわけ入給ふに。果して幽邃勝絶なる佳境な
J17_0687A08: りき。即ち今の古知谷是なり。
J17_0687A09: ○花洛を出て西を指し何くともなく行きて。攝州一
J17_0687A10: の谷の古戰塲に至り壽永のいにしへ源平の亂れに結
J17_0687A11: ぶ妄執をあはれみ。終夜念佛して所有精靈成三菩提
J17_0687A12: と回向し給へば。更闌に及びて忠度道盛敦盛の三鬼
J17_0687A13: 目近く顯れ出。上人に向いていふやう。修羅の炎止
J17_0687A14: 期なく今まで苦趣にありし身の。かしこくも今夜の
J17_0687A15: 手向に預り。唯今善趣に至るとて。歡喜踊躍の相を
J17_0687A16: 成し。合掌叉手して消去りぬ。
J17_0687A17: ○上人それより海邊に出。漫漫たる海上を打ながめ
J17_0687B18: て。終に我ゆくべき方と西方を望み。しきりに念佛
J17_0687B19: し給へば。彌陀如來忽ち來現し。御手を垂て大寶蓮
J17_0687B20: 花一本を給はり。此上にのぼりて我を拜せよと告給
J17_0687B21: ふ。時にいかにして登りたるとも覺えずして。かの
J17_0687B22: 蓮花の上に登り。尊容を拜し給へり。
J17_0687B23: ○紀州熊野三社は靈驗無双なる中にも。本宮證誠殿
J17_0687B24: は本地彌陀如來なりと傳へ聞給ひ。特に懷しく覺へ
J17_0687B25: て。彼に至り終夜稱名を修し心を澄しておはしける
J17_0687B26: に順禮し畢れる女人有。ただちに寶前に進み來り
J17_0687B27: て。八葉の鏡を權現に捧げ奉り。一大圓鏡曇なく。
J17_0687B28: 智惠の光明かに照させ給へと申て伏拜み。歸り去と
J17_0687B29: ひとしく。權現は僧形にあらはれ出。上人に告給は
J17_0687B30: く。汝濟度の悲願あり。よつて此鏡を與ふるなり。
J17_0687B31: 衆生の善惡を照し見て利益をなせと示し給へり。此
J17_0687B32: 鏡今現に當山に有。錦の袋に入たり。其袋には佛像
J17_0687B33: を織付たり。右の順禮とみへし女人は。相傳ふ那智
J17_0687B34: 山の如意輪觀音なりと。

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