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J2500 向阿上人伝 〓 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J17_0595A01: 向阿上人傳卷下
J17_0595A02:
J17_0595A03: 上人ひそかに思惟し給はくはからさるに一夜聞法の
J17_0595A04: 得益はしかしなから二尊遣迎の方便なりそれ千鈞の
J17_0595A05: 弩はひとり鼷鼠のために機を發せす大聖の慈悲なん
J17_0595A06: そ偏にわかためのみならんやよろしく所聞を筆記し
J17_0595A07: て遐代につたへむとおもふ此心さし冥慮にかなふや
J17_0595A08: いなや眞實の佛勅なりせは其しるしをしめし給へと
J17_0595A09: て重て極樂寺に一七日參籠して此事を慇禱し給へる
J17_0595A10: にたのもしきかな滿散の曉本尊出現し給ひてさきに
J17_0595A11: しめすところ實に大悲の本懷なりなを法門に不審あ
J17_0595A12: らは淸凉寺に參籠すへしとて筆をたまはるとおほえ
J17_0595A13: て夢さめけれは掌の中に現に一管の筆あり不思議な
J17_0595A14: りける事そかしかのもろこしの王珣か巨筆を夢見江
J17_0595A15: 淹か彩毫を夢に見しにははるかにまさりてたうとく
J17_0595A16: そ覺え侍る。
J17_0595A17: 翌年の秋なり月の廿日あまりに佛勅にまかせ嵯峨の
J17_0595B18: 釋迦堂に參籠し給ふ砌かすかに時秋なれはとりあつ
J17_0595B19: めたる物のあはれいとと感思もきはまりなく七日の
J17_0595B20: ちきりも今宵はかりとふけゆくそらにいかなる人や
J17_0595B21: らん本尊の御前にまふて三たひぬかつきて南無恩德
J17_0595B22: 廣大釋迦善逝ととなふるおとすなりまことに慈恩は
J17_0595B23: 廣大にいますとすすろにきく心をもよほすにややし
J17_0595B24: はしありて釋迦は此方より發遣すとしのひて誦せる
J17_0595B25: をきくにその聲おいらかにして去年の秋眞如堂にし
J17_0595B26: て見うしなへる異人なりけりうれしくも此御前にし
J17_0595B27: もめくりあへるかな是そ釋迦の方便に今霄またたう
J17_0595B28: とき事とも聽聞せむとためらひ給ふに參籠の貴人か
J17_0595B29: の老僧を局の内へむかへて男女面面にいふかしき事
J17_0595B30: を請問せりしつかにこれを聞給ふに去年の所聞にも
J17_0595B31: れにし事とも殘なく演説せられたり化風既に度かさ
J17_0595B32: なれは蒙霧なこりなくはるけてさなから靈山會上に
J17_0595B33: 侍るかと感涙ををさへ給ふかくて四衆の疑網はしお
J17_0595B34: ほくして三説の法輪ことをつくさるる程に東窓に曉い

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