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J2410 九巻伝 〓 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J17_0234A01: 御影をおがめと云ふ事を不審する條謂なしと。あし
J17_0234A02: き御氣色なりけるに。さはぎて驚たれば。善導の御
J17_0234A03: 影に向ひ參らせたる事。夢の中に上人に物語申つる
J17_0234A04: に。少もたがはざりければ。上人はただ人にては御
J17_0234A05: 坐ざりけりと。いよいよ信心ふかくして。往生の後
J17_0234A06: はかならずおもひ出べきよしをのせられ。また極樂
J17_0234A07: にまいりあへとのせられたる。御自筆の御文共をば
J17_0234A08: 錦の袋に入て。身をはなたずして念佛しけるが。誠
J17_0234A09: に時いたりけるにや。建保七年正月に。右大臣家薨
J17_0234A10: 逝の時。御免を蒙て出家の本意を遂にければ。上人
J17_0234A11: よりしるし給ける法名を付て尊願とぞ申ける。上人
J17_0234A12: 御往生の後は日に隨て極樂の戀しく。年を逐て穢土
J17_0234A13: のいとはしく覺へける儘に。常に此文を取出して拜
J17_0234A14: 見しては。とく迎へさせ給へと申けれども。むなし
J17_0234A15: く年月を送りける。上人の門弟已下の僧衆を屈し
J17_0234A16: て。仁治三年十月廿八日に。三七日の如法念佛をは
J17_0234A17: じめ。十一月十八日結願の夜半。道場のあかり障子
J17_0234B18: の内にして。高聲念佛數百遍の後。忍びて腹を切て。
J17_0234B19: あらゆるほどの物をば悉く取出して。練大口に裹
J17_0234B20: で。おさなき者をよびて。後の川に捨させにけり。
J17_0234B21: 夜陰の事なれば人更に是を知らず。其後僧衆に向
J17_0234B22: て。かやうに出家籠居して。大臣殿の御菩提を訪奉
J17_0234B23: るに付ても。主君の御餘波も戀しく御坐すうへ。上
J17_0234B24: 人の極樂にかならず參合へと仰の有しに。今まで
J17_0234B25: 不往生して尊願が長命かたがた無益の事なり。釋
J17_0234B26: 尊も八十の御入滅。上人も八十の御往生。尊願又滿
J17_0234B27: 八十也。第十八は念佛往生の願也。今日又十八日也。
J17_0234B28: 如法念佛の結願に當て。今日往生したらんは殊勝の
J17_0234B29: 事なるべしなど申ければ。かかる用意とは思もよら
J17_0234B30: ず。只あらましの詞と心得て。誠に目出こそ候はめ
J17_0234B31: と返答しけるに。その夜もあけ。十九日になりぬ。
J17_0234B32: 敢て苦痛なし。只今臨終すべき心地もせざりけれ
J17_0234B33: ば。子息民部大夫守朝をよびて。きりたる腹を引あ
J17_0234B34: けて。まろきもと云ものの殘て。臨終の延ると覺る

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