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J2410 九巻伝 〓 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J17_0197A01: 僧の御船に見ぐるしと申ければ。神歌をうたひ出し
J17_0197A02: 侍ける。
J17_0197A03: 有漏路より無漏路にかよふ釋迦たにも
J17_0197A04: 羅睺羅か母はありとこそきけ
J17_0197A05: と。うち出したりければ。さまざまの纒頭し給ひけ
J17_0197A06: り。其より後例となりて。天王寺の別當の拜堂には
J17_0197A07: 遊君の船をよせて纒頭にぞあづかるなる。又同宿の
J17_0197A08: 長者。老病にふして最後の時うたひけるいまやう
J17_0197A09: に。なにしに我身の老にけん。思へばいとこそかな
J17_0197A10: しけれ。今は西方極樂の。彌陀のちかひをたのむべ
J17_0197A11: し。とうたひければ。紫雲蒼海の波にたなびき。蓮
J17_0197A12: 花白日の天にふり。音樂近くきこえ。異香ちかくか
J17_0197A13: ほりつつ。往生を遂けるも。此上人の御勸に隨ひ奉
J17_0197A14: るゆへ也ければ。いまも上人に縁をむすび奉らんと
J17_0197A15: て。我おとらじとまいりあつまりて。おがみ奉け
J17_0197A16: り。
J17_0197A17: 被著高砂浦事
J17_0197B18: 播磨國高砂の浦に著給ければ。男女老少群集しける
J17_0197B19: 中に。七旬有餘の老翁と。六十有餘の老女と進み出
J17_0197B20: で申けるは。我等は重代この浦の海人なり。幼少よ
J17_0197B21: り漁を業として。朝夕魚貝の命をたちて渡世の計と
J17_0197B22: す。まことやらん物の命をころす者は。地獄に落て
J17_0197B23: 苦をうくる事隙なきよし傳へ承れば。悲しく侍れど
J17_0197B24: も。此業を相止ては身命つなぎ難き故に。悲敷なが
J17_0197B25: ら此罪業を積事年を經たりし。此罪をのがるる計ご
J17_0197B26: と候はば。助給へと申て手を合てなきければ。上人
J17_0197B27: あはれみをたれて。極惡最下の人。南無阿彌陀佛と
J17_0197B28: 唱て。佛の悲願に乘じ。極樂に往生する趣。ねむご
J17_0197B29: ろにをしへたまひて。十念を授られければ。歡喜の
J17_0197B30: 涙を流して歸けり。彼二人は年來の夫婦也。上人の
J17_0197B31: 仰を承て後は。晝は浦に出て漁をすといへども。作
J17_0197B32: 作の行を事として。口には念佛を唱へ。夜は宅に歸
J17_0197B33: りて二人同く念佛することを隣の人も驚くほどなり
J17_0197B34: けるが。遂に二人ともに臨終正念にて。高聲念佛し

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