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J2410 九巻伝 〓 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J17_0196A01: 早く最後に望めり。今生の恨み只此事にあり。我他
J17_0196A02: 界の後なりと云とも。汝相構て連連に御氣色をうか
J17_0196A03: がひて。且はかくとぞ返返申置れて候へと申て勅免
J17_0196A04: を申行べし。其のみぞ心にかかる事にてあると。能
J17_0196A05: 能仰られければ。光親の卿。仰のむね更に如在を存
J17_0196A06: べからず。便宜しかるべく候はん時。連つらに天氣
J17_0196A07: を伺ひ候べしとて。涙をおさへて罷出にけり。さて
J17_0196A08: 禪定殿下御臨終正念にして。御念佛數十返如入禪
J17_0196A09: 定して。同四月五日往生を遂させ給ひぬ。御年五十
J17_0196A10: 八。いまだ惜かるべき程の御事也。上人國に下つか
J17_0196A11: せ給ひて。いくほどもなくて此事をきき給て。御念
J17_0196A12: 佛日日に回向し奉り給ふ。一佛淨土誠にたのもしく
J17_0196A13: ぞ覺えし。
J17_0196A14: 大納言律師配所下向事
J17_0196A15: 上人配所へ趣たまひける同き日に。大納言律師の公
J17_0196A16: 今の二尊院聖信房湛空也同く西國へながされ侍りけるが。律師
J17_0196A17: の舟は前に出ければ。上人の下らせ給ふとききて。
J17_0196B18: 暫くおさへて上人の御船にのりうつり。一目見あげ
J17_0196B19: 奉りて。上人の御ひざにかしらをかたぶけて。泣哭
J17_0196B20: 天をひびかすといへども。上人は驚給へる氣色おは
J17_0196B21: しまさず。念佛してましましける。さて律師の舟よ
J17_0196B22: りとくとくと申ければ。本のふねにのりうつりけ
J17_0196B23: り。
J17_0196B24: 被著經島事
J17_0196B25: 攝津國經の島に著し給ければ。村里男女老少まいり
J17_0196B26: あつまる事。濱の眞砂の數をしらず。此島は六波羅
J17_0196B27: の大相國。一千部の法華經を石の面に書寫して。漫
J17_0196B28: 漫たる波の底にしづむ。鬱鬱たる魚鱗をすくはんが
J17_0196B29: 爲也。安元の寶曆より初て未來際を盡すまで縁をむ
J17_0196B30: すぶ人人は。いまも石をひろひてぞ向ふなる。鳥羽
J17_0196B31: 院の御時の事にや。平等院僧正行尊と申しは。故一
J17_0196B32: 條院の御孫。天下無双の有驗高僧にておはしましけ
J17_0196B33: れば。天王寺の別當に補任せられて。拜堂の爲に下
J17_0196B34: られける時。江口の遊君ども舟を近くよせければ。

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