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J2410 九巻伝 〓 画像

続浄の割書は、青字で小さく表示。

巻_頁段行 本文
J17_0195A01: はさる。詩人才士の面面に詠吟の外他なし。十日あ
J17_0195A02: まりの頃。其節を遂行はるべき由聞えけるほどに。
J17_0195A03: 七日の夜頓死し給ふ間。くもりなき世の鏡にておは
J17_0195A04: しましつれば。君を初奉りて萬人惜奉らずと云事な
J17_0195A05: し。禪閤の御歎き申に及ばず。御年わづかに三十八
J17_0195A06: 歳にぞ成給ける。此御悲の後は。今生の事は思召捨
J17_0195A07: て。一すぢに後生菩提の御いとなみに付ても。上人
J17_0195A08: に常に御對面ありて。生死無常の道理をも具に聞め
J17_0195A09: され。往生淨土の行業もいよいよ功つみて。聊御心
J17_0195A10: も慰み給ふ所に。上人左遷の罪にあたり給ふ事を。
J17_0195A11: いかなる宿業にて。かかる憂事を見聞らんと。勅勘
J17_0195A12: かうぶり給ふ上人は御歎きなけれども。只禪閤の御
J17_0195A13: 悲み見奉る。餘所までも心のをき所なかりけり。是
J17_0195A14: ほどの御事申もとどめ奉ぬ事。生きて世にあるかひ
J17_0195A15: もなけれども。御勘氣の初より左右なく申さんも。
J17_0195A16: そのおそれふかし。連連に御氣色をうかがひて勅免
J17_0195A17: を申行べし。土佐國迄はあまりに心もとなし。我知
J17_0195B18: 行の國なればとて。讃岐の國へうつし奉る。御名殘
J17_0195B19: やとどめがたかりけん。禪閤。
J17_0195B20: ふりすてて行はわかれのはしなれと
J17_0195B21: ふみわたすへきことをしそ思ふ
J17_0195B22: 上人御返事には。
J17_0195B23: 露の身はここかしこにて消ぬとも
J17_0195B24: こころはおなし花のうてなそ
J17_0195B25: おくれさきたつならひに候とも。同じ心にこそとた
J17_0195B26: のもしく思ひまいらせ候とぞ申されける。あはれな
J17_0195B27: りし事也。さて其後禪閤日夜朝暮の御歎きの故に。
J17_0195B28: 日來の御不食いとどおもらせ給て。御臨終近づかせ
J17_0195B29: 給ける時。藤中納言光親卿を召て仰られけるは。法
J17_0195B30: 然上人年來歸依し奉るありさま定て存じつらん。今
J17_0195B31: 度の勅勘を申ゆるさずして。遂に謫所へうつし奉る
J17_0195B32: 事。生て甲斐なく覺れども。梟惡の輩かやうに申行。
J17_0195B33: 逆鱗の誡のがれがたし。事の初に申とても。左右な
J17_0195B34: く御免有がたければ。愼で後日を期する處に。我身

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