浄土宗全書を検索する
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巻_頁段行 | 本文 |
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J17_0173A01: | の事か。武士のならひ進退心にまかせざれば。山門 |
J17_0173A02: | の堂衆を追討のために勅命を蒙て。只今八王子の城 |
J17_0173A03: | へ向侍り。忠綱武勇の家に生れて弓矢の道にたづさ |
J17_0173A04: | はる。進ては父祖が遺塵を失はず。退ては子孫の後 |
J17_0173A05: | 榮をのこさんがために。敵をふせぎ身を捨てば。惡心 |
J17_0173A06: | 熾盛にして願念發起しがたし。若又今世のかりなる |
J17_0173A07: | いわれを思ひ。往生のはげむべき理を忘れずば。居 |
J17_0173A08: | 時も則禮なく動時も則威なからん。かへりて敵の爲 |
J17_0173A09: | にとりことせられなば。永く臆病の名をとどめて。 |
J17_0173A10: | 忽に譜代のあとを失ひつべし。何を捨て何を取べし |
J17_0173A11: | と云事。只幽暗に向へるがごとし。願は上人弓箭の |
J17_0173A12: | 家業をも捨ず。往生の素意をも遂る道侍らば。詮を |
J17_0173A13: | とりて御一言を承り給ひ候はんと申ければ。上人宣 |
J17_0173A14: | ひけるは。彌陀の本願は專ら罪人の爲なれば。罪人 |
J17_0173A15: | は罪人ながら名號を唱て往生す。これ本願の不思議 |
J17_0173A16: | 也。弓箭の家に生れたる人。たとひ戰場に命をうしな |
J17_0173A17: | ふとも。念佛して終らば。本願に答へて來迎に預り |
J17_0173B18: | 往生を遂ん事。ゆめゆめうたがふべからずと仰られ |
J17_0173B19: | ければ。不審ひらき侍りぬ。さては忠綱が往生は今 |
J17_0173B20: | 日一定なるべしと悅て。上人の御袈裟を給て鎧の下 |
J17_0173B21: | にかけ。やがてそれより八王子の城へ向ひけるに。 |
J17_0173B22: | 彼社は東向なれば寄手は西向によせけるに。八王子 |
J17_0173B23: | 權現の本地は彌陀左脇の弟子觀自在尊也。幸に我西 |
J17_0173B24: | 方に向へり。往生の便を得たるものか。權現すて給 |
J17_0173B25: | ふなと祈請して。命を捨て戰けるに。堂衆の中に一 |
J17_0173B26: | 房中より十八人出たりける武者。みな手がら有ける |
J17_0173B27: | 豪の者也けるが。甘糟太郞と云。重代の豪の武者の |
J17_0173B28: | 向なるに。おなじく其仁を敵にうけて。高名もふか |
J17_0173B29: | くも此時あらはすべしと支度しけるが。いまだ甘糟 |
J17_0173B30: | を見しらざる間。名のらせて知らんとのはかりごと |
J17_0173B31: | にて。我と思はん敵は名のりてすすめといひて。十 |
J17_0173B32: | 八人の者どもしころをならべて木戸口より進出ける |
J17_0173B33: | に。甘糟は折しも木戸口ちかくせめよせたりける |
J17_0173B34: | が。取もあへず武藏國の住人甘糟太郞忠綱といふ重 |